「攻防の行く末」
「ねぇ、玄徳」
熱い日差しから逃げるように風の入る屋内で冷たい茶を飲みながら久しぶりにのんびりしていた劉備に尚香が頬杖を付いて不満そうに声を掛けた。
「何だ?尚香」
ズズとお茶を啜る。
ムスリと更に機嫌が悪くなりそうな尚香を片目で見やり小さく息を吐く。
「何なんだ?言ってもらわなければ分からないのだが?」
コトリと茶器を置いてから、劉備は尚香と向き合った。
尚香は尚香で、不機嫌そうに顔を上げ姿勢を正す。
「玄徳は何で髭を伸ばしてる訳?」
じとりと劉備を睨みつけ尚香は口を開いた。
「ん?これか?まぁ、髭がある方が威厳があるかなと思ってな」
髭を撫でながらうーむと唸るそれから、視線だけで似合わないか?と問う。
と、尚香は深く深く頷いた。
「似合わない。剃って」
きっぱりと。ただひたすらにきっぱりと尚香は言ってのけた。
「ホント似合わない!無い方が良い!今までずっと思ってたの!もう、我慢出来ないっ。今すぐ剃って!!」
バンッと卓を叩いて椅子を蹴倒し立ち上がる尚香に、劉備は追いつけずに焦り慌てる。
「ちょっ!?ま、待てっ尚香!落ち着けっ」
衝撃で倒れた茶器を元の位置に戻しながらも、その表情から動揺は消えていない。
「わ、私としてはこれは気に入っているんだ。どうにか許してくれないか?」
から笑いがハハと零れたが、そんなもので尚香の機嫌は直りそうにない。どうにかして、気を静めなければ。
「しょっ―――」
スパ――ッ!
はらり。右側の髭が綺麗に斬られ宙を舞った。
「剃らないなら!今!私がっ、此処で斬る!」
どこから取り出したのか、尚香の手には彼女が使い慣れている武器が。
「しょっ!?尚香っ!落ち着いてくれっ!」
此方も椅子を蹴倒し立ち上がれば、激しく揺れた卓から茶器が転がり落ちて床で派手に割れる。
ジリジリ。一触即発。勝負は一瞬。
そこへ。
「兄者、いらっしゃられるか?」
関羽の姿が現れた瞬間二人が動いた。
劉備が全速力で関羽の隣を駆け抜けて行く。
「玄徳ーっ!」
その後を尚香が追い掛けて行った。
嵐が吹き抜けたその部屋で、関羽がその自慢の髭を静かに撫でる。
「は、て?」
次の日、劉備の髭は剃られ若々しい彼が溜め息を吐いていて、尚香がとても機嫌が良いのを多くの者が目にしたとか。