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「この口付けを君へ」
R孫策(鬼)×R大喬(ver2)

蒼作


白への誕生日プレゼント
ちょこっと美周朗も出てます。

 

 

ざばりと水から上がる。

夜闇を照らしているのは、空の月と軍が駐屯する場所に立てられた松明だけだ。

川から上がれば、周囲を見張る兵の一人が駆け寄り、布と剣を渡してきた。

それを受け取れば、布をばさりと羽織り。剣を手に。

 

「――戻る」

 

一言告げ、歩き出した。

護衛兵が、その後を付いて来る。

天幕へ戻り、中へ入れば其処に周瑜が待っていた。

 

「浴びてきたぞ」

 

ドサリと椅子に座り、布で塗れている髪をがしがしと拭く。

 

――大将なのだから、身なりもちゃんとしておけ

 

と目の前の男に言い含められ、仕方なしに孫策は水浴びをしてきたのだ。

孫策自身は、それが面倒であったし戦場でそれはどうなのだと思ったが、がんとして周瑜が譲らなかったので仕方がない。

こちらが折れるしかなかった。

 

「決戦に合わせ、身を清め休めるのは大事な事だと何度言えば分かる」

 

周瑜がため息混じりに言って見せ、その後に小言が続きそうだったので慌てて手を振って止めた。

水浴び前に散々言われたのだこれ以上は勘弁してほしい。

 

「わかったわかった、オレが悪かった。で?何だ?そんな用じゃねぇんだろ?」

 

先を促し、さっさとこの義兄弟を返してしまおうとする。

それを知りつつも周瑜は相変わらず表情も変えず頷き。

 

「あぁ、この資料。明日の朝までに目を通しておいてくれ」

 

スッと差し出されたのは数枚の資料。

 

「ん、分かった」

 

 受け取れば、軽くその資料に目を通してみる。

明日の軍議に必要な物のようだ。

資料に目を通していると、ふと髪に何かが触れて視線を上げた。

 

「お前の髪は相変わらず、柔らかいな」

 

周瑜が孫策の前髪を指先で絡めながら、くつくつと笑った。

 

「そうか?お前ぇの髪程じゃねぇと思うがな」

 

どうでもよさそうに、此方も周瑜の髪に手を伸ばし軽く梳くって流す。

周瑜はひょいと肩を竦め触っていた孫策の前髪を一撫でして、手を戻した。

 

「では、私は行く。休めよ」

 

「あー、分かってるって」

 

孫策も手を戻し、ひらひら振って周瑜を見送る。と、天幕を出る前に周瑜が足を止めて振り返る。

何だよと、視線を向けてみると。

 

「風邪なんぞ、引くなよ?」

 

 くっと喉を震わせ笑うと、周瑜は逃げるように天幕を後にした。

 

「っ!?お前が水浴びしろって言ったんだろうがぁ!!」

 

怒鳴りつけたが当の周瑜はもう居ない。

 

「ちっ!」

 

がしがしと頭を拭いて、面倒だったが渡された資料をきちんと読み始めた。

一通り読み終えると、資料と布を放って寝床へ向かう。

服を身に付け、鎧は着ない。

体を休めるには邪魔になるからだ。

ただ、トレードマークの角の様な装飾の付いた額当てはしっかりとはめる。

そして、寝床に腰を下ろし剣を手に取った。

鞘から引き抜けば、黒い刃が鈍く光る。

 

「……大喬」

 

愛する妻の名を口にして。

この剣を捧げてくれた姿を思い出し。

刃に口付けを落とす。

 

「もう暫く待ってろ」

 

人前では見せない優しい笑みを浮かべてから、刃を収めようとすると、その刃にぽたりと前髪から雫が落ちた。苦笑してから、その雫を親指で拭い改めて刃を収める。

そして、ごろりと寝床へ転がり天幕の天井を見た。

その先に月の光を感じて、口の端で小さく笑うと、孫策は静かに眼を閉じるのだった。


2008.09.15
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