「天へ届く歌」
SR曹操×UC卞皇后
蒼作
夫婦のほのぼのなお話
白誕生日プレゼント
軍議を終えて、自分の部屋へと帰る道すがら、ふと耳に届いた淡い歌声。
疲れていたのか、その歌声が耳に心地よく、釣られるように道を変えた。
曹操は規則正しい足音を響かせ廊下を歩いた。
そして、一つの部屋の前で足を止める。
目の前の部屋から歌声が聞こえてくる。
「入るぞ」
一声掛け、返事を待たずに曹操はその部屋へと足を踏み入れた。
声を掛けた所為か歌は消えてしまった。それに不満を覚えるが、自分で中断させてしまったのだから仕方がない。
「あなた?」
部屋に入れば、曹操を不思議そうに見ている卞皇后の姿が在った。
あの、淡い歌声の主はこの人である。
「邪魔をする」
曹操は部屋に入ると、手近な椅子にドカリと腰を下ろし、卓に頬杖を付いて卞皇后を見た。
卞皇后は、露台へと出る扉の前に佇んでいる。
「軍議はお済みに?」
「あぁ。あれで、一応次の戦には勝てるだろうさ」
ふむと頷き、ニヤリと笑みを零す。
そんな曹操を見て、小さく卞皇后は微笑んだ。
「それは、お心強い」
そう言って触れていた扉から手を離し、卓側の棚へと向かう。
そこから茶器を取り出し、茶を注げば静かに曹操の前に置いた。
「ん」
曹操は、軽く頷いてから茶器を手にして一口。
自分では気付かなかったが、どうやら喉は渇いていたらしい。その後、茶の残りを一気に飲み干してしまった。
「ふぅ――」
コトリ、器を卓に戻すと卞皇后は静かに茶の変わりを器に注ぐ。
曹操はそれをちらりと見たが、次に手を付ける事なく、立ち上がった。
「?」
卞皇后がその動きに、どうしましたと視線で問うと、寝台の前まで歩いた曹操がその寝台を示す。
座れと言う事だろうかと、卞皇后は静かに移動してから寝台へと腰を下ろした。
すると、曹操が軽く笑った。
「借りる」
そう言うと、寝台に寝転がり卞皇后の綺麗に揃えられていた膝の上に頭を下ろす。
「孟徳様……」
少し驚きはしたものの、うろたえは見せず、卞皇后はくすくすと笑った。
どうやら、甘えられている様だ。
疲れているのだろう。
「お疲れの様ですね……」
さらりと曹操の前髪を撫でてみる。
曹操が、瞳を細めた。
「まぁ、な――」
珍しく認めて、フンッと鼻を鳴らした。
卞皇后の前ぐらいだこんな己を見せるのは。
「では、少しこのままお眠り下さい。誰も来ませんので」
くすくすと笑いながら、曹操の髪を愛しげに撫でる。
そんな優しい手が心地良く、曹操は瞳を閉じた。
そして、卞皇后は歌を優しく歌い始める。
開け放たれたままの露台へと続く其処から、柔らかい風が入り歌と重なり合って、部屋内を満たす。
ゆったりとたゆたう様に曹操は眠りへと身を沈めて行った。
優しい歌が、風に乗って空へと運ばれ天に昇って行く。
何時か、この膝の上で眠る彼が統べるであろう天へ、と。
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