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「2人」
大神×ロベリア

早朝にロベリアが大神部屋にお邪魔するお話

蒼作

『2人』


窓から入る月明かりが、ベッドを映し出す。
其処に眠る男は静かな寝息を零している。

ギシリ-

眠る男は気付かないのか寝入ったまま。

ギシ-

もう一度。ふと月明かりが何かを映し出した。
人、の横顔だろうか。
ニヤリとそれは笑った。
と、同じくして薄暗い室内を銀の一線が走る。
狙いは眠る男、それにか。

ギィンッ-!

金属音が室内に響き渡り、小さな火花が散った。
気付けば、今まで眠っていたはずの男が上半身を起し、手に抜き身の刀を握っている。
ジャラリという音と共に鎖が暗がりへと引き戻される。刀はその鎖を弾いたのだろう。
くぐもった笑い声が鎖が引き戻された暗がりから聞こえた。
「流石だねぇ、隊長」
艶かしい声が男の耳へと届く。
男、大神一郎は溜息を吐いて暗がりを見据える。
「ロベリア、なんのつもりだい?」
名を呼ばれて暫し、ゆっくりと暗がりから姿を現すのは、ロベリア=カルリーニ、彼女だった。
「なぁに、ちょっとした実力試しさ」
眼鏡が月明かりを弾き、鈍く光る。
「試って………」
大神は、呆れたように深い溜息を吐いた。
ロベリアはそんな大神を気にした風も無く、窓を開け放ち窓辺に腰をかける。
ふと、月明かりにその身を晒したロベリアを見て、大神は眉を顰めた。
「ロベリア……?」
「ぁん?」
街並みを眺めていた顔をロベリアは大神へと向ける。
そして、大神の表情を目にすればひょいっと肩を竦めた。
「ま、ご想像通りさ。仕事帰りでね」
所々汚れの見て取れる服を示して、ひらりと手を振って見せる。大神の表情が更に顰められた。
「お説教はごめんだよ」
ギロリと睨むロベリアの視線は、常人であれば震えだす程の物。が、大神はそれに表情一つ乱す事は無い。
大神は、ゆっくりとベッドから下りた。
「今の俺には、君を止められないだろうから…。何も言わないよ」
目を伏せ、悔しそうに大神は言う。
「ハンッ!これだからバカは」
そうしてロベリアは、また街並みへと視線を戻した。
大神は小さく肩を竦める。
「所で、不法侵入は宜しくないよ、ロベリア。今度はノックを頼む。それと、寝起きを襲うのも止してくれな?」
抜き身のままだった刀を鞘へと収めれば、小さな鞘鳴りが室内に響く。そして、大神は刀を枕元にさり気無く置いた。
「はいはい、そうするよ。覚えていたらね」
くくと笑い、顔を向ける事無くロベリアは答えた。
そんなロベリアを見て、今度は肩を落とす大神。
「ところで、あんた。寝る時もモギリ服なのかい?」
「は?…あぁ、今日は帰ってきてそのまま寝ちゃったんだよ。ちょっと疲れててね。いやぁ、不幸中の幸いだな」
そう言うと、大神は声を立てて笑った。ロベリアは、バカか?と肩を竦めるだけ。
「さて、コーヒーでいいかい?ロベリア」
簡易キッチンへと向かいながら、大神はロベリアに声を掛ける。
「あぁ、折角だし貰って行くよ」
暫くすれば、カップ2つを手にした大神が戻ってきた。
黒い液体で満たされたそのカップからは、白い湯気が立ち上っている。
大神は、ロベリアの居る窓辺まで静かな足取りで歩いて行く。
床が声を立てる事は無かった。
「ほら。ブラックで良いよな?」
大神がカップをロベリアへと渡す。
「あぁ、構わないよ」
小さな笑みを口の端に浮かべながら、ロベリアはカップを受け取った。
「熱いぞ」
そう告げ、大神はカップへと口を付ける。
「わかってるよ」
子供じゃないんだ。と呆れた溜息を零してから、ロベリアもカップへと口付ける。
少しの間、会話の無い穏やかな時が流れる。
時折、コーヒーを啜る音が2人の耳を掠めた。
「……あまり、危険な事はするなよ…?」
ポツリと言葉を零すのは大神が先だった。
「フンッ。危ない事なんて何も無いさ」
ロベリアが鼻で笑った。
「…なら、良いけど、な」
大神が小さく笑う。
「…………。…ま、少しぐらいなら、聞いといてやらないでもない」
やはり、街並みを眺めたまま、小さな声でロベリアが呟いた。そんなロベリアを見て、大神は静かな笑みを浮かべる。
もう暫くの間、2人は静かにコーヒーを飲んで、その時を楽しんだ。
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