「天を突く角」
SR曹操+R夏候惇+R夏候淵
蒼作
隻眼、角眼帯のお話
蒼作
隻眼、角眼帯のお話
ド―――
背後で鈍い音が聞こえた。
慌てて振り返れば、其処には夏候惇の背中。
「惇っ!!」
後ろ姿の影から見えるのは、矢の尾。
「孟徳。問題ない、戦に集中しろ」
―――ズッ
矢を引き抜く夏候惇のその姿を見てから、曹操は表情を一瞬変えたが、一呼吸後にはもう振り返らずに戦場へ。
夏候惇は、その曹操の気配を感じると笑みを浮かべその射抜かれた目を喰らった。
「フンッ!左眼如きっ、くれてやるわ!」
そして、また風を纏い戦いへと躍り出て行く。
風は、止まる事を知らなかった。
戦いは、曹操軍の勝利で終わり敵将の首を持って国へと一旦引き上げる。
戻って直ぐの軍議が終わり、廊下を歩く夏候惇の姿が在った。
左眼は包帯で覆われている。
暫く静かに歩いていると、ばたばたと駆けてくる音が背後から。
これは、夏候淵だなと思い苦笑しながら夏候惇は振り返った。
「淵。もう少し、静かに歩け」
「え!?あー、悪ぃ悪ぃ」
夏候淵は、夏候惇に突然振り返られ注意されると、僅かな驚きは見せるが誤魔化すのが先だと、たははと笑いながら頭を掻いた。
一度溜め息を吐いてから、夏候惇はまぁいいと零し、それから丁度良かったと口を開く。
「オヌシ、これから暇か?」
自分から声を掛けようとしていたら、先に話を切り出され夏候淵は、は?と首を傾げたが。
「あぁ、別に暇だぜ?」
まぁいいかと、頷いてから。久々の休みだと笑って見せた。
「なら、良い。少し手合わせを頼む」
言いながら、さっさと歩き出す夏候惇を夏候淵は慌てて追い掛けて隣に並ぶ。
「は?今から?身体休ませろよ、惇」
一応オマエ怪我人なんだぜと呆れながら。
「早めに慣らし始めた方が良いからな」
何がとは言わずとも分かるのでなにも返さず、彼らしいと笑いながら夏候淵はその夏候惇と共に、何時もの修練場へと向かう。
「そうだ、俺がやったヤツどうした?」
夏候惇の顔を覗き込み、白い包帯の巻かれた左眼を見やる。
夏候惇は、ん?と夏候淵の顔を見やってから。
「あぁ、オヌシが戦場のどっかからか持ってきたヤツか?」
スルリと左眼を撫でてから問うと、夏候淵が頷く。
「あれは、衛生上悪いからと、捨てられたな」
「まぢかよ!?俺が折角見つけてきたのに!」
ショックで脚が止まった夏候淵を置いて、夏候惇はさっさとその脚を進めるのだった。
修練場に着けば、早速と己が武器を手に間合いを取る。
武器を手にしてみれば呼吸を少し変えるだけで、先の和やかな気配は二人から消える。
じりと爪先が動き、空気がピシリと緊張を帯びた。
ジリ――
空気が弾ける。
と、思われた瞬間。その空気が他者により砕かれた。
別にどうでもよい相手ならば、二人はその空気を保ったまま、打ち合いを始めたのだろうが相手が曹操であれば、止まらざるおえなかった。
「こんな所に居たのか、お前等は」
呆れ混じりなその声に、夏候惇と夏候淵は顔を向ける。
すぐさま己の纏うモノを場に応じた気配に変えられるのは、さすが武人と言った所であろう。
「孟徳、どうした?」
己の武器を肩に担ぎ上げ、何とはなしに聞いたのは夏候淵。
夏候惇も同じ表情をしている。
「淵に用はない。惇っ!」
そう言って曹操は夏候惇に何かを投げて寄越す。
夏候惇は咄嗟に空いている手でそれを受け取ろうとしたが、左の視力を無くしために投げられたものを一瞬落としそうになった。
夏候淵は、なんだようと言いながら口を尖らせそれを見ている。
夏候惇が受け取ったのは、鋭い角の用な物。紐が付いている。はて、何であろうと、夏候惇は曹操へと視線を投げた。
曹操はフンッと笑い、指を指す。
「それは、眼帯だ。惇、お前にくれてやる」
『眼帯?』
思わず、夏候惇と夏候淵の声がハモる。
眼帯にしては異質で、余りにも攻撃的だ。
それを、曹操はくつくつと笑いながらさっさと付けろと言う。
「お前は、俺の背を護る男だ。そんな男が隙のような眼帯を晒すな。獰猛で攻撃的で雄々しく、危険でいてみせろ。だから、それをくれてやる」
ニヤリと嗤う曹操に、夏候惇と夏候淵は目を見合わせてからこれは心底面白いとばかりに声を立てて笑い出した。
「ククッ!良いだろう、孟徳。お前の望む通りになってやろうではないか!」
そう言い放ち、夏候惇は白い包帯を引き千切ると、角の眼帯を左眼へ。
角先が少し天を向く。
鋭く、攻撃的なそれに、夏候惇は獰猛に笑った。
「いいなぁ、惇は。その変わり、俺は怪我なんぞしないで孟徳を護がな」
「言ってくれるな、淵」
そんな風に言って笑う夏候淵に夏候惇が武器を構える。
「まぁな?」
ニヤリと笑い返す夏候淵もまた、武器を構え。
二人が大地を蹴った。
「ほどほどにしておけよ」
そうして、二人を見ながら曹操は満足そうな笑みを浮かべた。
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