「戯れ」
新次郎×昴
お風呂覗きのお話
蒼作
新次郎×昴
お風呂覗きのお話
蒼作
「戯れ」
「うはぁ、いいお湯だった」
湯から上がり、軽く空を見上げる。天井の無い其処からは、夜の空が見て取れる。
程よく火照った身体に、外から吹く風は心地良く、身体と心を涼やかにして行く。
「サニーさんの日本好きも、これだけはいいなぁって思う」
ぐっと両手を伸ばし、背伸びを一つ。
「と、早く上がらないと。折角の身体が冷えちゃうよ」
腕を下ろせば、ぱたぱたと脱衣所へ向かう。
脱衣所の籠の中には、衣服がきちんと畳まれて置いてあり、彼、大河新次郎の几帳面さが伺える。
バスタオルで身体を拭いてから、下着を穿いてズボンを穿いて。Yシャツを手にした時。
―――カタリ―
ふと、物音が聞こえ新次郎は顔を上げた。
「……昴は見た。…風呂上りの大河を……」
其処に居たのは、九条昴。口元に少し開いた扇を当てて、新次郎の事を見つめている。
「わ、わひゃぁっ!?」
驚いた新次郎は真っ赤になって、少女のようにバスタオルで前を隠す。
ズボンも穿いているし何ら問題も無い様な気がするが、当の本人はその事に気付いていない。
しかし、そんな新次郎を何時ものようにからかうでもなく、昴は眉を寄せじっと見やった。
そして、昴は何気なく動く。実に自然な動作な為、新次郎は其れに一瞬気付かない。
そんな風に新次郎に近付いた昴は、新次郎が意味も無く隠すのに使うバスタオルを
捲ると、彼の五輪のアザを見た。
そして、ゆっくりと手を伸ばし指先がその五輪のアザに触れる。
「す、すすす昴さんっ!?」
昴に触れられ、動揺を隠せない新次郎の声は裏返り顔は茹であがったように真っ赤
だ。
そんな新次郎の有様も目に入らないのか、スバルは五輪のアザにしっかりと触れ、
それから何度か指先でなぞる。新次郎は、その昴の動作に背筋をゾクリと振るわせ
た。
五輪のアザ。それは、傷痕に他ならない。そう、信長に射られた傷の痕。
「ああああ、あのっ!すすす昴さんっ!?」
もう一度、意を決して新次郎は昴の名を呼んだ。
すると、ハッと気付いたように昴が顔を上げる。その表情は一瞬、何処か悲しそうで、悔しそうで。
「………昂さん?」
そんな昴の表情に気付いてしまった新次郎は、今までの動揺は掻き消え真剣な表情で昴を見下ろした。そんな表情の昴を見たのは、初めてで。
「な……何でもないよ、大河。そんな顔をするな」
昴はそんな一瞬が無かったかのように、何時ものように薄く微笑んでから、扇で新次郎の鼻を叩いた。
手加減しているとは言え、それは鉄扇。新次郎の鼻の頭が少し赤くなる。
「な、何でもないわけないじゃないですかっ。あんな顔してっ――」
叩かれた鼻の頭を押さえながら、新次郎は昴に詰め寄った。あんな表情してほしくない。他ならぬ新次郎自身の事を見て、そんな顔を。
「何でもないんだ。大河は知らなくていい」
そう言って、昴は不意に新次郎との距離を詰めた。互いの呼気が触れ合うその距離
まで。
「――ッ!!?」
また、わたわたと動揺を露にする新次郎の顔を見上げてから、昴はそっと顔を下ろす。
そして、昴を見下ろす新次郎の目に見えたのは、唇を割って出るピンク色の舌。
昴は、その舌で新次郎の五輪のアザを一舐めする。
「はぅっ!?」
少しざらりとした感触が新次郎の身体を這う。
そして、新次郎は真っ赤になった。顔所か身体全体を赤くして、背をぴんと張り直立不動で固まってしまう。
湯に浸かり上気した肌は更に熱を持ち、今にも何処からか煙を噴出しそうだ。
「……………」
昴は、ゆっくりと新次郎の身体から顔を離し。それから、もう一度新次郎の顔を見上げる。
勝ち誇った笑みを称えた顔で。
「!!!!!!!?」
その昴の笑みを見た瞬間。直立不動だった新次郎は、今度はバネの壊れた玩具のように動き出して、昴の肩を掴み自分から慌てて遠ざける。
俯いたままで新次郎の表情は見えないが、耳まで真っ赤な所為でどんな表情か、昴には手に取るように解ってしまう。
「ぼっ!ぼぼぼぼ、ぼく!もう一度お風呂はいってきますっ!!」
言うが早いか、脱兎の如く駆け出して行く新次郎。
そんな新次郎の反応を予想だにしていなかったのか、昴は少し驚いた表情でその背を見送って。
―――ドボォンッ!!
盛大な水音と水しぶきが舞った。
「…………昴は思った。……少し、やりすぎたと……」
扇で口元を隠しながら、くくくと笑う昴。
これは、着替えを持って来てやらなくてはな。そう思えば、昴は踵を返し脱衣所を後にする。
脱衣所から出て、ふと昴は夜空を見上げた。其処には満月がぽつりと。
「……そう、キミは知らなくていいんだよ。新次郎」
静寂が流れる。そして、幾許かも経たぬ内に昴は小さな苦笑を零して歩き出す。
「着替えといっても、プチミント辺りの衣装しかないな」
小さく微笑んでから。
「仕方ない。今日は、責任持って送っていってあげよう」
実に楽しそうにそう呟けば、足早に衣裳部屋へと向かう。
屋上から昴の姿が消えてから暫し……。
「うぁぁぁ゛~」
風呂場から聞こえる唸り声。
「ぼ、ぼくだって、男なんですからねぇ~」
風呂の中に屈んだまま、出て来れない新次郎の姿がある。
暫くして、プチミントが肩を落として昴と共に帰って行く姿があったとか―――。
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