「潰えた光」
新次郎→昴
最終決戦前の新次郎のお話
黄緑作
自分的補完です。ゲームをやりながら、いつもあの影が出てきた後の新次郎が気になっていたので…
新次郎→昴
最終決戦前の新次郎のお話
黄緑作
自分的補完です。ゲームをやりながら、いつもあの影が出てきた後の新次郎が気になっていたので…
「ここは、一体……?」
見覚えの無い場所。先ほどまでとは明らかに違う雰囲気。
ぼくは、そんな所に迷い込んでいた。
―――潰えた光―――
先ほどまで死に物狂いで悪念機を倒して、居なくなってしまった仲間を探して階段を上っていたはずだ。
だというのに、今居る所には階段が無い。
いや、語弊があった。階段がというよりむしろ、何も無い空間。
部屋ではない。けれど外でもない。
異空間というのが相応しいかもしれない。
みんなの事を考えながら走っていたら、急に黒い影に包まれた事は覚えている。
あれが原因だろうか?
「寄り道なんて、してる暇は無いのにっ。早く、皆を…………っ!」
強く目を閉じると、みんなの姿が目に浮かぶ。
(ジェミニ、大丈夫かな?下手に動いて迷子になってないかな。早く、会いたいな。)
(サジータさん、無茶してないかな?一人で何でもやろうとする人だから、怪我してなければいいけど…。)
(リカ、泣いてないかな?一人は嫌だって言ってたのに。ずっと、一緒が良いって言ってくれたのに……)
(ダイアナさん、平気かな?戦闘も激しかったし、随分と疲れているはずだ。敵に鉢合わせてないかな?)
(昴さん…………)
そこまで考えて、唇を噛む。
ぼくを信じてくれた人を、こんなぼくの為に命をかけようとしてくれた人を、誰よりも大切な人を。
(昴さん。ぼくが守りますから。だから、だから……)
「待っていて下さい。」
祈りにも似た呟きは、自分の他誰も居ない空間に広がったかと思えたが、背後からそれは遮られた。
『誰を待ってるの?ここには、ぼく以外だれもいないよ?』
「っ?!」
聞き覚えがありすぎる声に後ろを振り向くと、そこには……
「ぼく……?!」
『そう、ぼくは、君だよ。』
そこには自分と同じ形の…けれど影のように真っ黒なスターが居た。
もう一人のぼく―――僕の影がゆっくりと近づいて来るのを見て、ぼくは剣を構えた。
すると、影は一向に剣の柄に手をかけようとせず…。
むしろ、その姿をあざ笑った。
『なんで戦おうとするの?戦っても、意味なんてないのに。』
クスクスと影のスターから聞こえる笑い声に張り詰めた神経を逆撫でされて、剣を握る手に力が入る。
「意味なら有る!!早くココを切り抜けて、皆に会うんだ!!」
そう。ココを切り抜ければ、きっと皆に会える。
どこにいるのかは分からないけれど、きっと会えるとぼくは信じていた。
しかし影は、疑問を表すかのようにスターの目に当たるカメラのライトを点滅させた。
『皆?なにを何を言ってるんだ?さっき言っただろ。ここにはぼく以外居ない。皆………………死んじゃったよ。』
「嘘だっ!僕は信じてる!!生きて帰るって、約束したんだ!!」
そんな言葉、聞きたくない。
ぼくは影の言葉を即座に否定した。
けれど、影は僕の否定を諸共せずぼくに語りつづける。
『君だって見たはずだよ。目の前で消えていく仲間達を。』
「っ!!」
ビクッとぼくの体が震えたのを自分でも感じた。
一瞬にして、消えていったみんなの姿が流れるように脳裏をよぎる。
(…迷うなっ!!)
ぼくはそれを振り払うように頭を思いっきり左右に振り、雑念を払った。
心の迷いは、戦闘では死に繋がる。
自分を強くもっていなければならないのだ。
「それでも、生きてる。どこかで、必ず!ぼくは信じているんだ!!」
信じている。だって、ぼくは戦いの前に皆と約束した。
皆で生きて帰る事。
誰の犠牲もなしに、平和を守る事。
(だから大丈夫。心配する事は……無い!)
心の中で皆との約束を確認して、ぼくは目の前の敵を睨みつけた。
剣を構えたままブースターをふかし、影に一気に詰め寄る。
大刀を勢いをつけて振り下ろすと、影も大刀で防いできた。
『くっ!!』
ただ、力だけならぼくと影は五分と五分かもしれない。
しかし、ブースターの勢いも借りていたぼくの大刀の勢いは影の力を上回っている。
それに気付いた影は、慌てて小太刀も使って防御した。
しかし、ぼくの狙いはそこ。
(今だ!!)
僕は力で押し返して来ようとする影の太刀を流し、ブースターの起動を変えてがら空きになっている影の脇から小太刀で切りつけた。
『ぐぁっ!!』
両腕を塞がれていた影は小太刀をまともにくらい、グラリとよろめいた。
その隙にぼくは再びブースターの起動を変えて、影の方を向いて体制を整える。
『……いつもより、勢いが違うね。何が、君をそこまで駆り立てるの?』
影は衝撃をやり過ごす事が出来たが、それでもダメージが大きかったのか鈍い動きで立ち上がった。
ぼくは影の動きを見逃さないようにジッと見ながら、問いに答えた。
「皆が大切だから。皆を信じているから。だから、ぼくは強くなれる!」
その答えに、影は何故か立ち尽くした後、くぐもった声を漏らした。
「……何だ?」
『くくっ………。ハハ……、あはははははははははははははっ!!!』
「なっ?!何が可笑しい!!」
急に笑い出した影にカッとなってぼくが怒鳴り返すと、影は馬鹿にしたような声でぼくに話し掛けてきた。
『………やっぱり、心なんてあると駄目なんだ。判断力が鈍る。』
「何っ?!」
『信じる…なんて、何を根拠に言ってるの?ただ、現実から目を逸らしたいだけじゃないか?』
「?!」
『皆とした約束に、縋りたいだけじゃないか?』
影の言葉に、思わず鳥肌が立った。
いや、違う。そんなはず無い。
「違う…。そんな事ないっ!!信じてるんだ!!」
『なら、何でぼく等しかココに居ないんだ?皆が無事なら、助けに来てくれる筈だろ?』
咄嗟に、言い返せなかった。
いつも傍にいてくれて、未熟なぼくを助けてくれて、支えてくれて。
一緒に居る事がまるで当たり前かのようだったのに。
今はぼく一人。
何故?何故?なぜ?
それは…………
「違う…っ!違うんだ………!ぼくは……っ」
襲い来る不安から逃れようと俯いていた顔を上げると、影が目の前まで迫っていた事にようやく気付いた。
「うぁっ?!!」
咄嗟に刀を振り下ろすが、それは難なく防がれる。
『戦いの最中に何をボーっとしてるんだ?』
戦いに集中しなくちゃいけないのは分かっている。
けれど、生死すら分からない皆のことを思うと、不安と焦りで剣が鈍ってしまう。
傷を負っている筈なのに影の猛攻は止まず、次第に押され始めて防戦に徹していく。
『さっきから防いでばっかりだね。それじゃぼくには……勝てないよっ!!』
「っ?!」
影が重心を下げたと思ったら、下から刀を振り上げられ、それを防ごうとしたぼくの太刀が弾き飛ばされた。
小太刀だけでは勝敗は目に見えている。
急いでスターに備え付けられた一郎叔父用の太刀を抜こうとするが、時は既に遅かった。
『動かないで。動くと、君の腕が飛ぶよ?』
影の剣先は、スターの腕のつなぎ目部分にヒタリと突きつけられていた。
影の言葉は嘘ではない。ぼくがこの太刀を抜こうとすれば、確実に腕が飛ぶ。
(……僕は、負けたのか?)
目の前に突きつけられた敗北の文字に、僕は何も出来ずに立ち尽くした。
すると、ピピッと電子音がして通信画面に影のスターの搭乗者―――笑みを称えたもう一人のぼく―――が映し出された。
『ようやく諦めてくれたんだね。良かった。ぼくは別に君と戦いたかった訳じゃないからね。……………ただ、真実を告げたかっただけだ。』
「……真…実?」
オウム返しのように繰り返すと、影は笑顔で頷いた。
『そう。もう誰も居ないから、君が頑張って戦う事は無いんだよ……っていう、事実を。』
「やめろっ!!」
『本当は、もう皆いない事を分かっているくせに。』
「もう聞きたくないんだっ!!!」
『可哀想だね。君は、また守れなかったんだよ。大切な人を。』
思い出す、過去の映像。かつての自分。そして彼女。
平和を守る為に。ぼくを守る為に。自らの命を差し出した彼女。
そして、希望を教える僧侶の身であったにもかかわらず、希望を信じきれずに彼女の命を諦めた自分。
『でも、ぼく等は生き残れてよかったね。皆を犠牲にしてでも生きたかったんだろ?』
「え?」
最初、考えに没頭しすぎて影に何を言われたか分からなくて呆然とした。
けれど、ジワリと言われた事が脳に広がって、ぼくは目を見開いた。
「違う、そんなつもりは…」
『違う?何が?前世だって、大切な少女を犠牲にしてまで生き残ったじゃないか。』
犠牲にしたかったわけじゃない。
そこまでしたかったわけじゃない。
それは過去の自分も今の自分も、望んだ事ではなかった。
「それは…」
『それは…何?平和の為に仕方なく?それとも、望んだ事ではなかった…と?でも、結果は変わらないよ。ぼく等は一番大切な少女を犠牲にしたんだ。そして、生き残った。………心は残酷だね。すぐに裏切る。』
「ちが……」
『人の心はすぐ変わる。どんなに大切だ、好きだといっても、最終的には我が身が可愛い。……でも、それに罪の意識を感じる事はないんだ。それが人の本能だから。仕方ないんだ。』
それが真実で現実だよ。そういった影の言葉を否定できなかった。
どう言い繕っても、過去のぼくは彼女の犠牲によって生き残った。そして、今のぼくは皆が居ないのにここに一人で立っている。
これが現実。否定したくても変わる事の無い、現実。
(もう、認めるしかないのかな……。影の言葉を。)
ぼくにはもう言い返すだけの気力も残っていなかった。
鋭い言葉の数々は、心を疲弊させて、希望を闇色に塗り潰していく。
「………ぼくは、守れなかったのか?」
『…うん。』
「………また、何も出来ずに終わったのか?」
『…うん。』
「……………誰も、助ける事は出来なかったのか?」
『……うん。』
目の前が滲んだ。
あぁ、泣きそうだ。
泣きたくない。泣いたら、全てを認めた事になってしまう。
けれど、影の言葉を否定する力も無く。
弱りきった心には、影の言葉は神の断罪のように思えた。
「ぼくは………また……………」
とうとう、ポタリと涙が拳に落ちた。
それをこらえる事も出来ずに、涙は関を切ったように次々とあふれてくる。
もう、これを現実と受け止めるよりしかかった。
(ぼく以外、誰も居ない。何も出来ない未熟なぼくだけが残された…)
その言葉を、認める以外の道は無かった。
「皆、ごめんなさい。ぼくが未熟なせいで……。いつも、皆に守られていたのに。」
隊長である自分について来てくれたのに。皆、大切だったのに。
誰の犠牲も出さないなんて偉そうな事を言っておきながら、結局何も出来なかった。
「昴さん……、ごめんなさい。昴さん…、ごめん、なさい。昴さん。……昴さん。すばるさ…ん」
一番自分の傍で支えてくれた人には、もう謝罪の言葉しか出てこない。
こんなぼくを見たら、昴さんは何て言うだろうか。
情けないと、叱咤してくれるだろうか。それとも、情けないと呆れるだろうか。
(あぁ、でも、もうあの人も居ないんだ。)
昴さんが居ない世界なんて、想像出来ないと言っていたのに、その世界が今ここにある。
『ぼく等のせいじゃない。心なんてあるからいけないんだ。君を信じたが為に、慕ってくれたが為に、命をかけて戦って、死んでいったんだよ。』
影が何か言っている。けれどぼんやりとした頭では、意味を理解する前に砂が零れるようにサラサラと言葉が消えていってしまう。
例え理解できたとしても、ぼくにはそれに構っているほど気力は無い。
だから、影がぼくの機体に溶けて一つになって行くのを見ても、どうする気も起きなかった。
(これが、昴さんが居ない世界……)
『悲しい?辛い?……心を無くせば、楽になれるよ。』
(希望の光が、見えない……)
『疲れたなら、休んでしまえばいい。後は、ぼくに任せて。』
(真っ暗だ………)
『おやすみなさい。』
――――こうしてぼくの意識は、闇に沈んだ。
深い深い、絶望という名の闇の中へ――――――――――。
見覚えの無い場所。先ほどまでとは明らかに違う雰囲気。
ぼくは、そんな所に迷い込んでいた。
―――潰えた光―――
先ほどまで死に物狂いで悪念機を倒して、居なくなってしまった仲間を探して階段を上っていたはずだ。
だというのに、今居る所には階段が無い。
いや、語弊があった。階段がというよりむしろ、何も無い空間。
部屋ではない。けれど外でもない。
異空間というのが相応しいかもしれない。
みんなの事を考えながら走っていたら、急に黒い影に包まれた事は覚えている。
あれが原因だろうか?
「寄り道なんて、してる暇は無いのにっ。早く、皆を…………っ!」
強く目を閉じると、みんなの姿が目に浮かぶ。
(ジェミニ、大丈夫かな?下手に動いて迷子になってないかな。早く、会いたいな。)
(サジータさん、無茶してないかな?一人で何でもやろうとする人だから、怪我してなければいいけど…。)
(リカ、泣いてないかな?一人は嫌だって言ってたのに。ずっと、一緒が良いって言ってくれたのに……)
(ダイアナさん、平気かな?戦闘も激しかったし、随分と疲れているはずだ。敵に鉢合わせてないかな?)
(昴さん…………)
そこまで考えて、唇を噛む。
ぼくを信じてくれた人を、こんなぼくの為に命をかけようとしてくれた人を、誰よりも大切な人を。
(昴さん。ぼくが守りますから。だから、だから……)
「待っていて下さい。」
祈りにも似た呟きは、自分の他誰も居ない空間に広がったかと思えたが、背後からそれは遮られた。
『誰を待ってるの?ここには、ぼく以外だれもいないよ?』
「っ?!」
聞き覚えがありすぎる声に後ろを振り向くと、そこには……
「ぼく……?!」
『そう、ぼくは、君だよ。』
そこには自分と同じ形の…けれど影のように真っ黒なスターが居た。
もう一人のぼく―――僕の影がゆっくりと近づいて来るのを見て、ぼくは剣を構えた。
すると、影は一向に剣の柄に手をかけようとせず…。
むしろ、その姿をあざ笑った。
『なんで戦おうとするの?戦っても、意味なんてないのに。』
クスクスと影のスターから聞こえる笑い声に張り詰めた神経を逆撫でされて、剣を握る手に力が入る。
「意味なら有る!!早くココを切り抜けて、皆に会うんだ!!」
そう。ココを切り抜ければ、きっと皆に会える。
どこにいるのかは分からないけれど、きっと会えるとぼくは信じていた。
しかし影は、疑問を表すかのようにスターの目に当たるカメラのライトを点滅させた。
『皆?なにを何を言ってるんだ?さっき言っただろ。ここにはぼく以外居ない。皆………………死んじゃったよ。』
「嘘だっ!僕は信じてる!!生きて帰るって、約束したんだ!!」
そんな言葉、聞きたくない。
ぼくは影の言葉を即座に否定した。
けれど、影は僕の否定を諸共せずぼくに語りつづける。
『君だって見たはずだよ。目の前で消えていく仲間達を。』
「っ!!」
ビクッとぼくの体が震えたのを自分でも感じた。
一瞬にして、消えていったみんなの姿が流れるように脳裏をよぎる。
(…迷うなっ!!)
ぼくはそれを振り払うように頭を思いっきり左右に振り、雑念を払った。
心の迷いは、戦闘では死に繋がる。
自分を強くもっていなければならないのだ。
「それでも、生きてる。どこかで、必ず!ぼくは信じているんだ!!」
信じている。だって、ぼくは戦いの前に皆と約束した。
皆で生きて帰る事。
誰の犠牲もなしに、平和を守る事。
(だから大丈夫。心配する事は……無い!)
心の中で皆との約束を確認して、ぼくは目の前の敵を睨みつけた。
剣を構えたままブースターをふかし、影に一気に詰め寄る。
大刀を勢いをつけて振り下ろすと、影も大刀で防いできた。
『くっ!!』
ただ、力だけならぼくと影は五分と五分かもしれない。
しかし、ブースターの勢いも借りていたぼくの大刀の勢いは影の力を上回っている。
それに気付いた影は、慌てて小太刀も使って防御した。
しかし、ぼくの狙いはそこ。
(今だ!!)
僕は力で押し返して来ようとする影の太刀を流し、ブースターの起動を変えてがら空きになっている影の脇から小太刀で切りつけた。
『ぐぁっ!!』
両腕を塞がれていた影は小太刀をまともにくらい、グラリとよろめいた。
その隙にぼくは再びブースターの起動を変えて、影の方を向いて体制を整える。
『……いつもより、勢いが違うね。何が、君をそこまで駆り立てるの?』
影は衝撃をやり過ごす事が出来たが、それでもダメージが大きかったのか鈍い動きで立ち上がった。
ぼくは影の動きを見逃さないようにジッと見ながら、問いに答えた。
「皆が大切だから。皆を信じているから。だから、ぼくは強くなれる!」
その答えに、影は何故か立ち尽くした後、くぐもった声を漏らした。
「……何だ?」
『くくっ………。ハハ……、あはははははははははははははっ!!!』
「なっ?!何が可笑しい!!」
急に笑い出した影にカッとなってぼくが怒鳴り返すと、影は馬鹿にしたような声でぼくに話し掛けてきた。
『………やっぱり、心なんてあると駄目なんだ。判断力が鈍る。』
「何っ?!」
『信じる…なんて、何を根拠に言ってるの?ただ、現実から目を逸らしたいだけじゃないか?』
「?!」
『皆とした約束に、縋りたいだけじゃないか?』
影の言葉に、思わず鳥肌が立った。
いや、違う。そんなはず無い。
「違う…。そんな事ないっ!!信じてるんだ!!」
『なら、何でぼく等しかココに居ないんだ?皆が無事なら、助けに来てくれる筈だろ?』
咄嗟に、言い返せなかった。
いつも傍にいてくれて、未熟なぼくを助けてくれて、支えてくれて。
一緒に居る事がまるで当たり前かのようだったのに。
今はぼく一人。
何故?何故?なぜ?
それは…………
「違う…っ!違うんだ………!ぼくは……っ」
襲い来る不安から逃れようと俯いていた顔を上げると、影が目の前まで迫っていた事にようやく気付いた。
「うぁっ?!!」
咄嗟に刀を振り下ろすが、それは難なく防がれる。
『戦いの最中に何をボーっとしてるんだ?』
戦いに集中しなくちゃいけないのは分かっている。
けれど、生死すら分からない皆のことを思うと、不安と焦りで剣が鈍ってしまう。
傷を負っている筈なのに影の猛攻は止まず、次第に押され始めて防戦に徹していく。
『さっきから防いでばっかりだね。それじゃぼくには……勝てないよっ!!』
「っ?!」
影が重心を下げたと思ったら、下から刀を振り上げられ、それを防ごうとしたぼくの太刀が弾き飛ばされた。
小太刀だけでは勝敗は目に見えている。
急いでスターに備え付けられた一郎叔父用の太刀を抜こうとするが、時は既に遅かった。
『動かないで。動くと、君の腕が飛ぶよ?』
影の剣先は、スターの腕のつなぎ目部分にヒタリと突きつけられていた。
影の言葉は嘘ではない。ぼくがこの太刀を抜こうとすれば、確実に腕が飛ぶ。
(……僕は、負けたのか?)
目の前に突きつけられた敗北の文字に、僕は何も出来ずに立ち尽くした。
すると、ピピッと電子音がして通信画面に影のスターの搭乗者―――笑みを称えたもう一人のぼく―――が映し出された。
『ようやく諦めてくれたんだね。良かった。ぼくは別に君と戦いたかった訳じゃないからね。……………ただ、真実を告げたかっただけだ。』
「……真…実?」
オウム返しのように繰り返すと、影は笑顔で頷いた。
『そう。もう誰も居ないから、君が頑張って戦う事は無いんだよ……っていう、事実を。』
「やめろっ!!」
『本当は、もう皆いない事を分かっているくせに。』
「もう聞きたくないんだっ!!!」
『可哀想だね。君は、また守れなかったんだよ。大切な人を。』
思い出す、過去の映像。かつての自分。そして彼女。
平和を守る為に。ぼくを守る為に。自らの命を差し出した彼女。
そして、希望を教える僧侶の身であったにもかかわらず、希望を信じきれずに彼女の命を諦めた自分。
『でも、ぼく等は生き残れてよかったね。皆を犠牲にしてでも生きたかったんだろ?』
「え?」
最初、考えに没頭しすぎて影に何を言われたか分からなくて呆然とした。
けれど、ジワリと言われた事が脳に広がって、ぼくは目を見開いた。
「違う、そんなつもりは…」
『違う?何が?前世だって、大切な少女を犠牲にしてまで生き残ったじゃないか。』
犠牲にしたかったわけじゃない。
そこまでしたかったわけじゃない。
それは過去の自分も今の自分も、望んだ事ではなかった。
「それは…」
『それは…何?平和の為に仕方なく?それとも、望んだ事ではなかった…と?でも、結果は変わらないよ。ぼく等は一番大切な少女を犠牲にしたんだ。そして、生き残った。………心は残酷だね。すぐに裏切る。』
「ちが……」
『人の心はすぐ変わる。どんなに大切だ、好きだといっても、最終的には我が身が可愛い。……でも、それに罪の意識を感じる事はないんだ。それが人の本能だから。仕方ないんだ。』
それが真実で現実だよ。そういった影の言葉を否定できなかった。
どう言い繕っても、過去のぼくは彼女の犠牲によって生き残った。そして、今のぼくは皆が居ないのにここに一人で立っている。
これが現実。否定したくても変わる事の無い、現実。
(もう、認めるしかないのかな……。影の言葉を。)
ぼくにはもう言い返すだけの気力も残っていなかった。
鋭い言葉の数々は、心を疲弊させて、希望を闇色に塗り潰していく。
「………ぼくは、守れなかったのか?」
『…うん。』
「………また、何も出来ずに終わったのか?」
『…うん。』
「……………誰も、助ける事は出来なかったのか?」
『……うん。』
目の前が滲んだ。
あぁ、泣きそうだ。
泣きたくない。泣いたら、全てを認めた事になってしまう。
けれど、影の言葉を否定する力も無く。
弱りきった心には、影の言葉は神の断罪のように思えた。
「ぼくは………また……………」
とうとう、ポタリと涙が拳に落ちた。
それをこらえる事も出来ずに、涙は関を切ったように次々とあふれてくる。
もう、これを現実と受け止めるよりしかかった。
(ぼく以外、誰も居ない。何も出来ない未熟なぼくだけが残された…)
その言葉を、認める以外の道は無かった。
「皆、ごめんなさい。ぼくが未熟なせいで……。いつも、皆に守られていたのに。」
隊長である自分について来てくれたのに。皆、大切だったのに。
誰の犠牲も出さないなんて偉そうな事を言っておきながら、結局何も出来なかった。
「昴さん……、ごめんなさい。昴さん…、ごめん、なさい。昴さん。……昴さん。すばるさ…ん」
一番自分の傍で支えてくれた人には、もう謝罪の言葉しか出てこない。
こんなぼくを見たら、昴さんは何て言うだろうか。
情けないと、叱咤してくれるだろうか。それとも、情けないと呆れるだろうか。
(あぁ、でも、もうあの人も居ないんだ。)
昴さんが居ない世界なんて、想像出来ないと言っていたのに、その世界が今ここにある。
『ぼく等のせいじゃない。心なんてあるからいけないんだ。君を信じたが為に、慕ってくれたが為に、命をかけて戦って、死んでいったんだよ。』
影が何か言っている。けれどぼんやりとした頭では、意味を理解する前に砂が零れるようにサラサラと言葉が消えていってしまう。
例え理解できたとしても、ぼくにはそれに構っているほど気力は無い。
だから、影がぼくの機体に溶けて一つになって行くのを見ても、どうする気も起きなかった。
(これが、昴さんが居ない世界……)
『悲しい?辛い?……心を無くせば、楽になれるよ。』
(希望の光が、見えない……)
『疲れたなら、休んでしまえばいい。後は、ぼくに任せて。』
(真っ暗だ………)
『おやすみなさい。』
――――こうしてぼくの意識は、闇に沈んだ。
深い深い、絶望という名の闇の中へ――――――――――。
PR
この記事にコメントする