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「華咲く場所へ」
大神×紅蘭

誕生日記念、初春のお話
「花舞う場所への」に続きます。

蒼作

「華咲く場所へ」






コンコン――
廊下に静かなノック音が響く。
「紅蘭居るかい?大神だけど」
部屋の前、律儀に名を告げて部屋の主の存在を求めるが、暫し待った後も返事は無かった。
大神は軽く頭を掻いてから、もう一度扉をノックする。
コンコン――
やはり、返事は無い。
「寝てる訳じゃないか。格納庫かな?」
部屋の主が居ない事を確認すれば、他に何処に居るのか見当をつけて大神は歩き出した。
静かな足音と共に、廊下を歩む。鍛えられた強靭な四肢が靴音を静かな物にさせているのだろう。彼は見た目以上に鍛え上げられた身体を持っているのだ。毎日欠かさない修練や戦闘訓練がそれを保っているのだろう。
エレベーターに乗り地下を目指す。
ごうんごうんと動くエレベーターの音を耳に目的の階に着く合間、大神は瞳を伏せた。
チン――
到着音と共に、扉が開く。
淀みの無い足取りで、大神は格納庫内へと向かった。

カチャリ ガチャ チャキ
光武の下から金属の擦れ合う音がする。上半身を光武の下へと押し込み、紅蘭が光武の整備をしていた。
「ありゃ?なんや、こないな所の塗料が剥げとるやないか。後で塗っとかんとなぁ」
ぶつぶつと呟きながら、工具箱へと手を伸ばした。指先が工具箱の淵を掴むが、引っ張り寄せるのが上手く行かず、逆に工具箱を遠ざけてしまった。
あちゃーと顔を顰める紅蘭の耳に、コツコツと床を踏みしめる靴音が聞こえた。
これはラッキーとばかりに紅蘭は声を上げる。
「すんまへんけど、誰か工具箱ちょっとこっちへ押してくれへんか?」
コツリ。足音が止まった。どうやら、此方の声が聞こえたのだろう、工具箱がス――と手元に戻ってきた。
「恩にきるわぁ」
礼を言いながら、工具箱から目的の工具を取り出す。
光武に手をかける前に、ふと首を傾げる。去って行く足音が聞こえないのだ。疑問に思い顔を出そうと軽く動いてみる。と、其処には大神が居た。
「なんや、大神はんやったんやね。すんまへん、なにやら顎でつこうてもうて」
にこりと笑みを零す紅蘭に大神も笑みを返す。
「いや、全然構わないよ。それより、ちょっと用があるんだけどいいかい?」
「用?なんの用なん?」
紅蘭は完全に手を止めて、光武の下から這い出てくる。そうして、大神を見上げた。
「ちょっと、一緒に出掛けたいんだけど構わないかい?いや、忙しいなら、今度で構わないんだけど」
頬を軽く掻きながら、大神はちょっと照れ臭そうに訪ねた。そんな大神の仕草に紅蘭は小首を傾げ、一度光武を見上げた。
「かまへんけど、もうちょっと待ってもらえんやろか?もうちょっとで、この子の整備終わるんや」
そう言って、紅蘭は愛しそうに光武の足を撫でた。
「あ、いや、明日でも構わないんだ。暇な時声を掛けてくれ。その時出かけよう」
わたわたと、両手を軽く振りながら。
「せやから、後ちょっと言うてんねん。待てへん?」
大神のそんな仕草を見て、思わず紅蘭はくすくすと笑ってしまう。
紅蘭に笑われてしまった大神は、どこかバツが悪そうに視線を外す。その頬が少し赤い所為か何だかその仕草が子供っぽくて、紅蘭はもう一度軽く笑ってしまった。
「じゃ、じゃぁあと少しなんだろ?俺は、ロビーで待ってるから用意が出来たらきてくれ」
そう言って足早に去ろうとする大神の背を紅蘭は慌てて声をかけて止めた。
「待ちぃな、大神はん。長々とロビーで待たすんのも悪いやんか。そうやね、あと一時間後にロビーで待ち合わせしよ」
「え?あぁ、後一時間か。分かったよ、じゃぁその時間で」
大神は、懐中時計で時間を確めてからにっこりと微笑み紅蘭の邪魔をしては悪いと、今度はゆっくりとだが格納庫を後にした。
そんな優しげな大神の笑みに、我知らず頬を軽く染めながら紅蘭はぐっと拳を握りよっしゃはよ片付けよと、光武の下へと潜り込む。
「せやけど、出かけるって何処行くんやろね?」
なんて光武に話し掛けながら、紅蘭は手を素早くけれど丁寧に動かし始めた。

大帝國劇場のロビー。
一時間経つより少し前に大神は其処に居た。思わず、何時もの居るモギリ場所へと立っているのは何時もの癖。
今日は、公演の無い日故、ロビーに人の姿は無い。何時もなら休みでも売店を開けているのだが、今日はそれもお休みで何時もその売店にいててきぱきと動き回る椿の姿も無い。
「ちょっと、早く来すぎたかな?」
なんて、懐中時計を見ながら大神は小さく零した。その格好は、何時ものモギリ服だ。着慣れている所為か、普段からモギリ服を着用している。最近では、出かけるときももっぱらこの服だ。ので、違和感は無い。
暫し、ぼんやりとロビーを眺めながら紅欄がやってくるのを待つ。そんな時でも、思わず思い浮かべるのは街の平和や光武の訓練、先の戦闘状況など。一種の職業病かもしれない。司令になったからには、大切な事なのだけれど。休む間も無い様な気がする。が、本人はきっそそれに気付いていない。
そんな事を考えている内、耳にぱたぱたと駆けて来る足音と気配を感じた。泳がせていた視線を戻し、廊下の方へとその視線を投げた。
「いやー、すんまへん。大神はん。ちょっと遅刻してもうて」
冬服のチャイナ服に身を包んだ紅蘭が足早に此方へとやってくる。被っているチャイナ帽を片手で押さえながら。
「大丈夫、俺も今来た所さ」
そう言って紅蘭を安心させてやりながら、手を軽く振る。
「そうなん?それならよかった」
大神のそんな優しい嘘に気付いているのか、紅蘭は柔らかい笑みを浮かべた。
「じゃ、行こうか」
大神も、にっこりと微笑んでゆっくりと歩き出す。
空は晴天。雲一つ無い。今日は良い天気だった。

暫く、他愛の無い会話を交わしながら、大神が先導して歩く。紅蘭もそれに異論を唱える事無く、その後に続く。完全に大神を信頼した歩みで。そして、その2人の歩みは紅蘭の歩みに合わせているのか、ゆっくりした物だった。
路地に入り込み、民家が並ぶ細い道を行きながら二人は会話に花を咲かせる。
「良い天気やね。こういう日はやっぱ、外に出た方が気持ちええね」
うーんと背伸びをしながら器用に歩く紅蘭を見て、大神は軽く笑いながら同意する。
「そうだな。こういう日はのんびりするのもいいよな」
『中庭の芝の上で寝転んだりっ』
2人の声が重なって響いた。そうして、2人で笑いあう。
そうこうしている内に、紅蘭の鼻腔を花の香が擽った。
「ん?なんや、良い匂いやね?何やったっけ?」
うむむと小首を傾げながら紅蘭はその香の元を必至に思い出そうとする。大神はそんな紅蘭を見つつ、瞳を細めて笑んだが助け舟を出そうとはしなかった。
香がだんだんと強くなってくる。
そうして、入り組んだ路地の一角を曲がった時、視界一杯に広がったのは 梅の華 。
「ふわぁ~、絶景やね」
思わず、ぽかんと口を開けてしまう。
視界に広がる白やピンク。紅蘭は眼をぱちくりさせた。
「どうだい?綺麗だろ。朝の走りこみで最近見つけたんだ。これを、どうしてもキミに見せたくてね」
照れながら大神も梅の華へと視線を向けた。
視覚と嗅覚を刺激するその存在を暫し2人は無言で見つめる。
「はぁ、すごいわぁ。あ、でもなんでなん?」
素朴な疑問と共に、やっと梅から視線を外し紅蘭は大神を見上げた。
大神は、ちらりと紅蘭を見下ろせば視線を外しを数回繰り返し、たはははと笑った。
「いや、さ。その誕生日プレゼント。今年はさ、皆で一つのプレゼントだったろ?でもさ、個人的に何か一つ送りたくて……」
がしがしと頭を掻きながら大神はそっぽを向いてしまう。どう見ても照れ隠しだ。
それが嬉しくて、紅蘭は自然と笑みを浮かべた。
「物は渡したし、俺もお金に余裕があるわけじゃなかったし…。それに、紅蘭は結構格納庫とか部屋に篭ったりが多いだろ?そこから引っ張り出すのもかねてさ」
視線を下ろした大神の顔は、やはり頬が軽く染まっていたけど、優しくて力強い笑みだった。
「大神はんらしいね。でも、うれしいわぁ。ありがと、大神はんっ」
そうして、紅蘭は大神の腕に抱きついた。
おっと、と声を零して紅蘭を片腕で受け止める。そんな言葉を口にするくせに微動だにせずしっかりと受け止めてくれる大神の腕が、紅蘭はとても嬉しかった。
「もう暫く、見てたいんや。そやから、ちゃんと付き合ってぇな」
にかっと笑みを浮かべる紅蘭に了解と頷いた大神は視線を梅の華へと戻した。
2人して、その梅の華々に見惚れる。
空は晴天、雲一つ無い。そんな青空に栄える梅の華はとても美しかった。
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