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「もう一つの七夕」
大神×レニ

七夕のお話

蒼作

「もう一つの七夕」





空は晴天。
もう、夏の陽射しへと変わった太陽が我が物顔で大地を照らしている。
これだけ機嫌の良い空だ。夜は確実に晴れであろう。
7月7日。
そう、今日は七夕。そして織姫の誕生日。
イベント好きの花組その他のメンバーは朝から張り切って夜のパーティーの準備を始めていた為、
午後に入るか否か辺りで準備を終えてしまい、今は個々の時間を過ごしていた。
そんな午後の一時。
中庭のベンチにレニの姿があった。
膝にフントの頭を乗せ、その頭を撫でながら、時に空を見上げ、時にパーティーの準備が整った中庭を見つめ、浮かない顔で物思いに耽っている。
「………」
レニは、空を見上げていた顔を下ろし、地面を見つめた。
そんなレニを上目使いに眺めていたフントが不意に顔を上げる。レニはそれに気付かない。
「レニ?どうしたんだい?」
背後から優しく、そしてどこか気遣う声が聞こえた。
聞きなれたその声に、はっ、と我に返ったレニは慌ててその声が聞こえた方へと顔を向ける。
フントが尻尾を振りながらワンと鳴いた。
「た、隊長」
「やっぱり。何だか浮かない顔をしてるね?」
大神は小さな微笑みを浮かべながら、隣いいかい?と訪ねてからレニの隣へと腰を下ろした。
「何か、悩み事かい?さっきまでは元気そうだったのに」
パーティーの準備をしていた時のレニを思い出しながら、大神はレニの顔を覗き込みつつフントの頭を撫でる。
「え…、その…」
レニは視線を彷徨わせてから、大神の優しげな視線から顔を反らした。
暫く二人は黙ったまま。レニは俯いてしまい、しかし大神はそんなレニを促すことはしなかった。
「…隊長」
先に口を開いたのはレニだった。
「ん?」
「ボクは、欲張りなのかな?」
レニは顔をあげると大神を見遣った。大神は、空を穏やかに見上げていた。レニも釣られるように空を上見上げる。
「ボク…、願い事が二つあるんだ」
ほぅっと息をついて眩しそうに瞳を細める。
大神は、顔を下ろしレニを見つめる。驚いた様に。
「七夕の願い事?」
「……うん」
頷けば、また俯いてしまうレニを大神は愛しそうに見つめた。
「別にさ、二つぐらいなら大丈夫だと思うよ?」
大神はレニの頭へ手を延ばし、優しく撫でた。
レニは擽ったそうに小さく笑ってから、大神を見上げる。
「そりゃ、10個や20個もあったらちょっとあれだけど…」
そうしてクスクスと笑いながら。
「それに、実は俺。願い事が三つもあるんだ。しかも、もう短冊に書いちゃって、後は笹に吊すだけ」
俺の方が欲張りだねと大神は、大きく笑った。
「そっ!そんな事ないっ」
レニはふるふると首を振って大神の服を掴む。
大神は微笑んでからレニを優しく抱きしめた。
「それじゃあ、レニもそんな事ない。ね?」
ぽんぽんとレニの背を優しく叩く。
「でも……ボクの願い。もう、叶ってるのがあるんだ。これ以上何か望んでは……」
ぎゅっと大神の服を掴んだまま、レニは大神の胸へと額を押し付ける。
「レニ、レニ。良いんだよ。キミが何かを望んでも、誰も怒らないし、誰も咎めたりしないから。望んで。織姫と彦星がキミの願いを叶えられないなら、俺が叶えてあげるから」
レニの背をそっと撫でてやりながら、大神はレニの耳元で囁く。
「皆もさ、レニと同じくらい願い事を持ってくるよ。そして、笑い合いながら、笹にその願いを吊るすんだ。レニが気にする事は何も無いんだよ。さあ、折角の七夕。折角の織姫君の誕生日。楽しく過ごそ。笑顔で居ないと、織姫君が怒るぞ?」
「うん」
レニは、小さく頷いて大神の胸に擦り寄って顔を隠した。
頬が紅くなっている事と、嬉しくて溢れ出た涙を隠す為に。レニの表情にはもう、陰はなくなっていた。


時が経ち、夜になった。
パーティー会場の中庭のテーブルには所狭しと料理や飲み物、お菓子等々が並び、勿論バースデーケーキもある。
それぞれは浴衣を身に纏い、今日この日、その人を祝っていた。
笹が風に揺れる。吊り下げられた飾りや皆の願いが書き込まれた短冊も、葉に擦れ小さな合唱を奏でている。
何時しか、パーティーも終盤となりそろそろ御開になる頃合い。
片付けは明日と満場一致になり、各々が部屋へと戻って行く。
数名は、まだ部屋で少し飲もうとか、もう少し空の天の川と織姫と彦星を見て行くと言ってはパーティー会場から離れていった。
人の姿がもうない会場の中央。笹がその身を堂々と晒している。その根元に小さな人影。
レニが、其処にいた。
周囲を見回してから、こっそりと取り出す短冊一つ。
葉が生い茂り、そんな所に吊るしたら文字が見えないであろう其処に、その短冊を吊るした。
二つの願いの内一つ。それは、皆の前では気恥ずかしく、見られるのもちょっと躊躇い、吊るせなかった一枚。
短冊の文字を読み返し、ちょっと満足そうに頷いた。
「レニ?」
突然掛けられた声に、びくりと身体を震わせ慌てて振り返る。
「た、隊長っ」
何だか、朝と似たような反応を返してしまった。一つだけ違うのは、その表情に陰りが無い事。その代わりに、頬が軽く紅いが、夜の暗闇の中。星明りが在るとは言え、それは気取られずに。
「見回り?」
気を落ち着かせてから、大神へと歩み寄り尋ねた。
大神は、そうだよと頷いてから笹へと視線を向ける。
「短冊を吊るしてたのかい?」
「うん。あっ、み、見ないでね?隊長!」
頷いてから、しまったとばかりにわたわたと慌てるレニを笑顔で見ながら大神は笹から視線を外した。
「わかったよ」
そうして、ゆっくりと歩き出した。その後をレニも何とはなしに追って行く。
「見回りは、此処で終わり?」
「あぁ。戸締りを確認してからと思ってね。そしたら、レニを見つけたんだ」
何時も、腰を下ろすベンチへ辿り着けば、大神はゆっくりとそれに腰を下ろす。そして、手を伸ばしレニもと促す。
何時もと違い、浴衣を着ている所為かなんだか、こう言っては変かもしれないが大神は色っぽく見えた。襟から覗く素肌は、引き締まりその人の強さを感じさせる。
レニは、差し伸ばされた手を取って大神の隣へと座った。
「願い事、叶うと良いね」
大神がにっこりと微笑んだ。
「うん」
レニも、笑みを浮かべて頷く。
「もし叶わなかったら、俺に言ってね。叶えてあげるから」
不意に腕を伸ばし、レニの前髪を掬う。
「う、うん。隊長も、言ってね。ボクも隊長の願いを叶えてあげるからっ」
「あぁ、ありがとう。レニ」
レニの前髪を掻き上げ、大神はレニのおでこにキスを落とした。
レニの顔は真っ赤に染まる。
「とりあえず、朝言ってた願いとは違うんだけど……もう暫く一緒に居てくれるかい?」
「うん」
そうして、二人は空を見上げた。
空に広がるのは星の海。
でも、今日の主役は天の川。そして、織姫の彦星。
もう暫く、せめて今日が終わるまでは、この些細な願いを叶えて欲しい。
大神とレニは、そう星に願った。
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