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「七夕の奇跡」
大神×織姫

誕生日記念、七夕のお話

黄緑作

「七夕の奇跡」





今日の七夕特別公演「織姫と彦星」は見事際盛況に終わり、打ち上げも兼ねた織姫の誕生日会も大いに盛り上がった。

舞台が跳ねた後だったので気分が高揚したせいか皆随分と羽目を外して騒いでいた。
けれど、身体は疲れていたのだろう。
いつもなら誰かしろ起きている時間帯であるにも関わらず、皆部屋で休んでいる。
そんな中、大神はかえでが伝え忘れた明日の予定を各々に伝えながら一人見回りをしていた。





(レニ・すみれ君・カンナには誕生日会が終わった直後に伝えられたから大丈夫だよな。マリアはかえでさんに直接聞いたみたいだから、マリアも大丈夫。アイリスは……伝えた事には伝えたけど、随分と眠そうだったからな。)

そこまで考えて、先ほどまで会っていたアイリスの事を思い出す。
部屋で寝る準備万端だったアイリスは、起きているのが不思議なくらい眠そうだったが、必死に瞬きをしながら話を聞いていた。
けれど、意識が飛んだのか何度もカクッと頭が下がっていたので、会話の内容を覚えているかは怪しいところだ。

(明日の朝、また言った方が良さそうだな。)

俺は記憶の中の微笑ましい様子に密かに笑ってから、再び仕事に思考を戻す。
アイリス以外の他のメンバーも大体部屋で休んでいたから、大体伝言は終わった。

一人を除いては。

(……織姫君。何処にいったんだろう?)

今回の主役である織姫だけは部屋におらず、伝言も伝えていない。
ノックをしても返事が無く、寝ているだけかとも思ったのだが、それにしては人の気配がしなかった。
織姫が一番疲れているだろうに、どうしたのだろうか。
彼女の事を想いながら中庭へ向かった。


2006.07.07  黄緑


中庭に出ると、少し強めの風に闇の中で雲が動いているのがぼんやりと見えた。
空は生憎の曇天。折角の七夕なのに星の一つも見えない。
前日に花組の皆と一緒に飾った笹の葉と短冊のサラサラと擦れ合う音が、物悲しさを増徴させた。
特に誕生日である織姫は、この日天の川を見ることを楽しみにしていたのだ。
彼女はプライドが高いから表立って喜んでいた訳ではないが、それでも七夕が近付くにつれて織姫に笑顔が増えていった事に気がついていた。
だから、今朝の蒸気ラジオで「今日は一日曇り空でしょう」と伝えられたときに、誰よりも落ち込んでいたのも知っていた。

(星が見えればよかったんだけどな。せめて、一瞬でも。)

そう思いながら空を見て、それから視線を笹に移した。
すると、風に翻る短冊や笹飾りの中に飾りには似つかわしくないものを見つけた。


ふわふわと揺れる白い物体。これは……


「てるてる坊主?」

思わず疑問系になってしまったのは、それがどこか不恰好だったからだ。
笹に吊るしてあるてるてる坊主の紐を指で抓んで間近で見ると、紐を固定してあるにも関わらず器用にくるりとひっくり返った。
これでは逆に雨が降りそうだ。

「どうしてこんな所にこれをつけたんだろうな…?」

俺は後ろを振り向いて、じっと植木の向こうの草陰を見つめてからこう言った。

「ねぇ、織姫君。」

その瞬間、ガサガサッと大きな音がした。
スタスタと植木に近付いて上から覗き込み、蹲っている少女の頭をポンと叩く。

「そろそろ出ておいで。服が汚れるよ?」

「………いつから気付いていたですか?」

「…ついさっき、かな。」

実を言うと、中庭に入ったときから既に人の気配に気付いていた。
けれど、部屋に居なかった織姫か神出鬼没な加山か判別はつかなかったため、カマをかけてみたのだ。
といっても、そんなことを言ったら只でさえむくれている織姫が余計悔しがる姿が目に浮かんだので、言うのは敢えて避けておく。

「それで、どうしたんだい?こんなところで。」

「別に?ちょっと眠れないから散歩してただけでーす!中尉さんは見回りの途中でしょ?こんな所で時間を潰して良いですか?」

話を変えるように尋ねるとが、話す気はないのかそ知らぬ顔でそっぽむいてしまった。
この状態でこの言い訳は滅茶苦茶だが、今は表情に動揺は見られない。流石は女優。
どんなに無理だろうが無茶だろうが、彼女なら俺を言いくるめる事くらい簡単だろう。
だが、彼女はその言い訳が通用しない決定的な証拠があることにまだ気付いていない。
思わず苦笑すると、織姫はそれを目ざとく見つけて睨みつけてきた。

「なんですか~?」

「いや、なんでもないよ。あと、見回りなら大丈夫。ここが最後だったんだ。だから、」

そこで一旦言葉を切って、織姫の足元を指差した。そこには、さきほど笹に吊るされていたものと同じ白い物体が程植木に引っかかっている。
恐らく立ち上がったときに引っ掛けて落ちたのだろう。
それを拾い上げて、少し付いてしまった汚れを叩き落とす。

「これ。付けるの手伝うよ」

そう言って白い物体――――てるてる坊主――――を織姫の目の前で小さく揺らすと、一気に織姫の顔が真っ赤になった。

「に、日本の男デリカシー無いでーす!!こういうものは気付かない振りをするものじゃ無いんですかー?!」

てるてる坊主を奪い取るように取り返してから、織姫は眉を吊り上げてきつく睨むんできた。
けれど、その怒りが照れから来ているものと分かっているのであまり迫力は無い。
むしろ「可愛いな」なんてどうしようもない事を心の中で考えながら、ごめんと一言謝った。

「本当にすまないと思ってるですか?」

「思ってるよ。今日は織姫君の気が済むまで付き合うから、許してくれないか?」

「ふぅ~ん……」

織姫は腕を組んで考えるそぶりを見せてから、ニヤリと意地悪く笑った。

「中尉さんがどうしてもって言うなら、それで許してあげなくもないですけどー?」

先ほどから、してやられてきた彼女の意趣返しなのだろう。
けれど、その言い回しがいかにも彼女らしい。

「あぁ。どうしても。駄目かい?」

「仕方ないですねー。中尉さんがそこまでいうなら、つき合わせてあげまーす。」

高慢に言い放った彼女と目が合って、特に何を話すでもなく顔を見合わせていたら、何故か笑いがこみ上げてきて。
気付いたら、お互いにクスクスと笑い合っていた。



「本当は今日晴れたら、中尉さんと一緒に星を見たかったんです。」

織姫は笹につけたてるてる坊主や、植木に引っかかっていたてるてる坊主以外にも5つ程隠し持っていたが、それはどれも首を傾げたような歪な形になっていた。
器用にひっくり返るてるてる坊主の紐を解き、形を整えてから再び結んで織姫に渡す。
織姫は、渡されたてるてる坊主を笹に結ぶ。
その行為を黙々と繰り返していると、ふいに織姫がポツリと話し始めた。

「ラジオで「一日中曇り」って言ってましたんで、諦めようとも思ったんですけど。でもやっぱり、諦められなくって。」

だから、どうしても晴れて欲しくててるてる坊主を作ったのだと、織姫は呟いた。
父親に教わったてるてる坊主に、願いを託すことにしたのだ。

「部屋にも飾ったんですけれど、それでも晴れなくて。もしかしたら、願いを叶えてくれる笹ならに飾ったら、晴れるかもしれないって思ったんです。」

けれどその行動は子供みたいでやっぱり恥ずかしくて。
誰かが中庭に来たのを察して咄嗟に隠れたのだと笑いながら言った。
しかし「恥ずかしい」の部分が自分の中で引っかかって、首をかしげる。

「別に良いんじゃないかな。恥ずかしくないよ。」

反論をするが、織姫は下手なフォローだと思ったのか曖昧に笑うのみ。
そんな顔をさせたくなくて、なお言を紡ぐ。

「叶えたい願いがあったから、出来る努力をしたんだろう?それは、恥ずべき事じゃない。何もしないで後悔するよりも、ずっと良いと俺は思うよ。」

そう思わないか?と、同意を求めると、織姫は表情をみるみる明るくさせて頷いた。

「……そうですねー。後悔より、マシですよね。」

「だろ?」

それでもやはり子供じみているのが恥ずかしかったのか、素直じゃない言葉が織姫の口から出てきたが、彼女はどこかスッキリとした表情をしている。
元の明るい表情に戻ったのを確かめてから、最後の一つを織姫に手渡す。
そして、それを笹に結びつけた。

「これで完成でーす!後は、晴れるのを待つだけですね。」

7つのてるてる坊主をつけた笹は、愛嬌があるような気がして面白かった。



ベンチに座って、他愛の無い話をして笑い合いながら、2人星が出るのを待った。
待つ時間は退屈なものとは程遠く、久々の2人きりの時間をのんびりと過ごす。
いつもは花組の皆と一緒だから、その貴重な時間を楽しんだ。

「それにしても、どうして織姫君はそんなに星を見たかったんだい?」

『七夕だから』と言われればそれまでだが、ラジオで曇りだと伝えられていたのだから諦めそうな気もした。
文句も言うだろうし、不満もあるだろうが、織姫は案外サッパリとした性格……というか、切り替えが早い性格だ。
「てるてる坊主」なんて迷信に頼る程、何かをしようと自ら動くなど見たことが無い。
素朴な疑問を織姫にぶつけると、織姫は雲が広がっているだけの空を見上げた。

「ねぇ、中尉さん。誰かをずっと想いつづけるのは大変だと想いませんか?」

「え?」

先ほどの会話とは繋がっていなそうな質問を逆にされて、思わず答えを返せずに戸惑いの声が漏れる。
空を見上げつづける織姫の横顔を見ると、どこか切ない顔をしていた。

「人の心は不安定なものです。他に素敵な人を見つけたかもしれない。もう、自分の事を愛していないかもしれない。あるいは逆に、自分の気持ちが冷めてしまうかもしれない。」

確かに、人の心は目に見えないし移ろうものだ。
不安や、嫉妬や、妬み。そんな目を背けてしまいたくなるような感情は山のようにある。
だからこそ誰かを思いつづけることは難しい。

「長い間会えないのに、ずっとお互いを愛して、想いつづける。それって、凄い事だと思います。」

「……うん。そうだね。」


「だから年に一度の逢瀬ぐらい、叶えてあげたいじゃないですか。」

凛とした声が、願いが、夏の夜に小さく響いた。
同じ「織姫」という名前で思い入れがあるのか、自分の両親が長い間離れ離れになっていたことを思ってか、はたまた別の理由か。
それは分からないけれど、天の恋人達のことを思って晴れて欲しいと切実に思っているのは確かだった。

「織姫君……」

彼女の名前を呼ぶと空から視線をこちらに戻して、先ほどの表情は嘘のように消え、いつもの笑顔でこう言った。
                        こいびと
「それに、地上の織姫は彦星とずっと一緒なのに、天の織姫が彦星に年に一度も会えないんじゃ不公平でしょ~?」

少しおどけるように言ったセリフは本心かどうか分からないけれど、その辺は敢えて聞かないでおく事にした。
どちらにしても、願いは同じ。

「だから、晴れて欲しいんで~す。」

「晴れるよ、絶対に。」

だって、地上の織姫がこれだけ願っているんだから。



――――――――それから、どれだけ待っただろうか。

眠り静まった劇場は、風の音と笹の揺れる音しか聞こえない。
公演と誕生日会で疲れきっていた織姫は、肩にもたれ掛かって眠っている。
織姫を起こさないようにじっとしながら空を見つづけていると、遠くに雲の切れ間が見える事に気がついた。

「織姫君、起きて。」

「ん~……。あれ?私、寝てたですか?」

「少しの時間だけね。…それよりほら、あれ。」

織姫の意識がハッキリするまで待ってから空を指差すと、織姫は驚きに目を見開いた。
雲の切れ間は風に吹かれて瞬く間に広がっていく。
懐中時計に視線を落とすと、時間は11時半。
ギリギリだが7月7日だ。
再び視線を空に戻して様子を固唾を飲んで見守っていると、切れ間はとうとう中庭の上空までやってきた。


そして……

「見えた……。」

「天の川でーす!!!」

流石に空一面にとまでは行かないが、それでもぽっかりと大きく空いた雲の間からは、美しい天の川が覗いていた。
織姫は歓声を上げながら喜び、自分はこの奇跡に声も無く空を見上げた。

「……織姫と彦星は、会えたですかねー。」

「うん。会えたよ。」

「…そうですか。なら、良かったで~す。」

「織姫君の願いが天に届いたんだよ。」

天の川に見とれながらそう言うと、織姫は少し考えてから首を横に振った。

「『私の願い』じゃなくて、『私達の願い』……でしょ?」

「……そうだったね。」

悪戯っぽく笑う織姫に、こちらも自然と笑顔が零れた。


そのままベンチで暫く星を見ていると、不意に織姫が「あっ!」と声を上げて立ち上がった。

「どうしたんだい?」

「忘れてました!!短冊を飾らなくちゃいけなかったですね。」

「え?昨日の内に飾ったんじゃないのか?」

至極当然な疑問を返すと、織姫は呆れたような表情でチッチッチッと指を振った。

「昨日は昨日。今日は今日でーす!ほら、さっさと笹に飾るですよ!」

織姫はスカートのポケットに手を突っ込んでローズピンクの短冊を取り出した。
既に願い事は書かれてあるらしく、早速笹に結ぼうとしている。
まさかそんな事を言い出すとは思っていなかった………というよりむしろ見回りの途中だったので、当然自分は短冊など持っていない。
メモとペン位はあるが結びつける紐も無いので、大人しく織姫が結び終えるのを見ている事にした。
紐を結ぶのなどすぐ終わるだろうと思っていたが、何故か織姫は背伸びをしながら悪戦苦闘している様子。
必死に手を伸ばして高い位置に結ぼうとしているが、手元が見えない分上手く結べないらしい。

「そんな高い位置に結ばないで、もっと下の方に結んだら?」

「何言ってるですか。下の方に吊るして天の織姫と彦星が短冊が見えなくて願いを叶えてくれなかったらどうするですか!今回の天の川が出てきたのは私達の努力があってこそなんですから、私達の願いが真っ先に叶えられるべきでしょー?」

だから高い位置に結ぶのだと断言したが、どう頑張ってもカンナの短冊よりも低い位置にしか届いていない。

けれど、台を探して急いで戻ってくるのも大変だし時間も掛かる。

(これで12時が過ぎて七夕が終わったら織姫君もがっかりするだろうし………)

そんな事を考えていると、織姫は諦めたように溜息をついた。
「うぅ、やっぱカンナさんの短冊より高く結ぶのは無理ですか。仕方ないですねー、じゃあこの辺に……」

「待って。」

「はい?…っ、きゃあっ!!」

近くの笹の枝に短冊を結ぼうとするのを遮って、俺は腕に座らせるように彼女を抱え上げる。
身体が不安定にならないようにもう片方の腕で背中を支え、安心させるように微笑むと、織姫の顔が何故か赤くなった。

「え?あ、あの、中尉さん?!」

「織姫君……。」

「は、はい…。」

「…これで、一番高い位置に結べるだろ?」

「……はい…って、え??高い位置?」

織姫はキョトンと目を丸くしてから、辺りを見渡した。
そこが、俺の言った通り他の短冊が飾られていない事を確認したようだが、織姫は何故か赤い顔を更に真っ赤にしてしまった。

「織姫君?」

「な、何でもないでーす!!」

どうかしたのだろうかと下から顔を覗き込もうとしたが、それを避けるように顔を背けられたので、表情は窺い知れなかった。
それでもジッと様子を見ていると、ペシンと額を叩かれた。

「何でもないですってば!それより、落ちないようにちゃんと支えてて下さいよね!」

顔を真っ赤にしたまま何でもないと言われても嘘だといっているも同然なのだが、それよりも彼女が怒って暴れないようにしっかりと支えておく方が優先だろう。
大人しく黙って支えてる事に専念すると、織姫は満足したのか手早く笹に紐を結び始めた。


笹から外れないようにきつく紐を結んでいたが、ふと何かが気になったのか手を止めた。

「そういえば中尉さんは、一体何をお願いしたですか?」

「俺?」

「えぇ。」

「…俺の願いは……、世界平和。この帝都だけじゃなくて、巴里や、他の世界も平和でありますように……って。」

帝都の皆も、巴里の皆も、他の国に暮らしている人々も。
戦って傷付かないように。敵の脅威に怯えないように。
そんな願いを短冊に託した。
それを聞くと、織姫は納得したように一つ頷いた。

「相っ変わらず、中尉さんは真面目ですねー。でも、中尉さんらしいです。」


「そういう織姫君は?」


「私ですかー?私は新しい靴と、ドレスと、バック。あと、楽譜が欲しいって書いたで~す!」

もしかして、クリスマスと混同しているんじゃないかと思える願い事の内容に、俺は思わず苦笑いになってしまった。
だが、ふと気付く。
「あれ?もう一つの願いは?」

抱えている織姫君の身体が、何故かピクリと小さく動いた。
動揺したように感じたが、何か言い辛い事でも聞いただろうか?

「も、もう一つの願いって?」

「だって、昨日も織姫君は短冊を書いて飾ってただろ?その短冊と、今飾っている短冊と2つあるんだから、願い事も2つじゃないのか?」

「え~っと、まぁ、そうですけど。」

「そっちにはなんて書いたんだい?」

織姫は、「う~~~~ん」と唸るような声を上げながら悩んでいたが、結局「内緒です」と言われてしまった。

「良いじゃないか、言ってくれても。」

「言ってしまって願いが叶いにくくなってしまったら嫌ですから。」

(………俺は願いを言ったし、織姫君も一つ願い事を言ったんだけどな…。)

少しぼやきたい気持はあるが、大切な願いだから言わずに大切にしたいという気持ちも分からないでもない。
諦めて短冊の紐を笹にグルグル巻きにして満足した織姫を降ろすと、織姫は甘えるように腕に手を回してから

「願いが叶うといいですねー。」と、楽しげに笑った。




地面に降りた織姫は腕を絡めた状態のまま、俺のを見上げて問い掛けた。

「ねぇ、中尉さん。私と年に一度しか会えなくなっても、ずっと私の事を思ってくれますか?」

織姫が突然そんな事を尋ねてきたので、何事かと思ってまじまじと織姫を見ると、その表情は期待と少しの不安を混ぜたような感じで俺の解答を待っている。

(一年に一度しか会えない?)

その時の事を想像してみようと暫く考えてみても中々浮かばない。
そして、ようやく一つの答えを出した。

「……さぁ、どうだろう。分からないな。」

そう答えると、織姫は驚いたように目を見開いた。
てっきり「YES」という返事が返ってくると信じて疑わなかったのだろう。

「な、何でですか中尉さんっ!!どういうことですか?!」

「落ち着いて織姫君。」

「これが落ち着いてられますかっ!!」

「だから、待ってくれって。まだ続きがあるんだから。」

怒り狂う寸前の織姫を宥めると、なら続きを言ってみろという感じで睨まれたので、思わず苦笑が浮かんだ。

「だって、地上の織姫と彦星は常に一緒なんだろ?離れ離れになるなんて事は、ならないし、させないよ。」

離れ離れになることを想像しても、浮かんでは来なかった。
だから、それが答えなのだろうと自分の中で思ったのだ。
そう言って笑うと、織姫はポカンとしてから、蕩けるように、擽ったそうに笑って回した腕に力を込めた。

「願い事、もう叶っちゃいましたねー。」

「ん?どうかしたのかい?」

「ふふ、何でもないで~す。」

声が小さくて聞こえなかったのだが、聞いても楽しそうに笑うだけで答えてはくれなさそうだ。

(何て言ったんだろう?)

なにやら今日は、秘密にされる事が多い気がする。だが、昔姉にも言われたが女性とは謎が多いものなのだろうと思って諦める。
何を言ったのかはまだ気になるが、彼女の幸せそうな笑顔が見れたから見れたからよしとしよう。

十二時の鐘が鳴って七夕が終わりを告げても、2人は離れることなく星を見つづけた。






寄り添う二人の後ろで、「中尉さんとずっと一緒にいられますように」と書かれた短冊が、星の光を浴びながら風に揺れていた。

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