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「愛しき今」
ラチェット+大神


リトルリップシアターでの出来事その1
黄緑作





 「やぁラチェット。サニーサイド指令は居るかい?」

 扉をノックし、扉を開けた人物は少し意外な人物だった。

色々な国の人種を包容するこのアメリカでも日本人は珍しく周囲の目を引くが、それに臆することなくピンと背筋を伸ばして部屋に入ってくる。

「あら、大神司令。ここに来るなんて珍しい。」

笑顔で部屋に入って来たのは、日本と巴里の華撃団を束ねる大神一郎指令。だが、ここは日本でも巴里でも無く紐育のリトルリップシアターだ。

珍しいというより、ここに来るのは初めてではないだろうか。

「でも残念ね。サニーなら、用があると言って私邸に戻っているわよ。」

「そうなのか。間が悪かったかな。」

「何か用だったの?」

「いや、大した用じゃないんだけれどね。折角紐育に居るんだから、シアターを見学しながら用事を済ませられれば良いなと思っただけなんだ。」

困ったように笑う大神司令の小脇に抱えているものを見てみると、日本庭園が表紙の本を持っている。

どんな内容なのかまでは分からないが、おそらくはサニーが日本の文化を知りたいと言って資料をせがんだのだろう。それを態々持ってくるとは律儀な人だ。

「サニーの家まで案内しましょうか?あの人の用事は重要なことではないから。」

色々と忙しい司令自ら来てもらって、何もなしに帰すのも申し訳ない。提案を申し出てみると、大神司令は思案気に首を傾げた。

「良いのかい?」

「良いのよ。用事と言っても、庭に笹を飾とか言っていただけなんだから。」

「笹?」

大神司令は驚いたように目を瞬かせたが、一瞬で何か納得したのか驚きは笑顔に変わる。

その表情の変化に、逆に私が目を瞬かせた。

「なるほど、今日は七夕だからか。サニーサイド指令は本当に日本の文化がお好きだな。」

「タナバタ?」

「日本では七月七日を七夕と言って……、笹に願い事を書いた紙や飾りを飾ったりして祝う、星のお祭りのようなものなんだ。まぁ、厳密に言うなら日本のお祭りというより中国から伝わったお祭りなんだけどね。」

簡略的に説明された話を聞きながら、ふと織姫を思い出す。そういえば、ずっと昔に織姫からその話を聞いたことがあった。サニーの行動が突飛なのはいつものことだから、きっと今回も突発的な思い付きだと思っていたのだが、そんな理由があったとは。

 

一人感心しながらそんなことを考えていると、大神司令はジッと私のほうを見つめ、ある提案をしてきた。

「折角だから、ラチェットも何か願い事を書いたらどうだい?」

「えっ?!」

「何でも良いんだ。夢とか、希望とか。」

そんな事を言われても、とっさに願いは浮かばない。

何とか誤魔化そうかと思った瞬間、黒く切れ長な目とかち合う。私の何かを探るような、誤魔化しを見逃さない瞳。

誤魔化して逃げることは出来るだろうが、それはこの人を失望させるような気がする。

 

(夢や、願い……)

 

大神司令がどんな答えを期待しているのかは分からないが、今度は真剣に考えてみる。

欲しいもの、願うこと、叶えたい出来事。だが、やはり願いは浮かばなかった。

『世界平和』という願いはもちろんあるが、個人的な願いは浮かばない。

星に願いを……というのを馬鹿にしているわけではない。

どちらかというと、そういう考えはロマンティックで好きなほうだ。なのに、願いが口から零れてこない。

「……ごめんなさい。やっぱり浮かばないわ。」

素直にそう答えると、大神司令は「そうか…」と言って何かを考えるように顎に指を添えた。

表情はがっかりした様なものではなく、何か悩んでいるようだが穏やかなままだ。

一体、何を考えているのだろうか。

「……願いが無いというなら、君は君の理想の未来を歩いて行けているのかな?」

大神司令の質問に、一瞬戸惑う。

「私、は……」

 

理想の未来。

 

 正直に言うなら、全てが望んだ通りというわけでは無い。

長年望んでいた星組を復活させることはできた。

現在実戦部隊の名称として使われている花組ではなく星組の名にしたのは、エリート部隊であったにも関わらず解散を余儀なくされたという無念さと、半ば意地のようなものもあったのかもしれない。

だが、それ以上に純粋に夢として望んでいたのだ。星組の復活を。

 本当は、その星組を隊長として自分の手で再び率いていきたかった。また、仲間と共に戦場を駆けることを夢見ていた。


つづく(その2へ)

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