新次郎×昴
見回り後のお話
蒼作
舞が……微妙?もっとこう、上手くかければいいんだけど学もないし……○| ̄|_
今度、もうちょっと真面目に舞いのシーンを書いてみようかと、ちょっと見当。
「見回りの最後に」
大河新次郎は、シアターの夜の見回りをしていた。
ふと、時計を見やればそれもそろそろ終わりの時間。
新次郎は最後に舞台を見回りに行こうと足を向ける。
夜のシアターは、昼とはうって変わって静寂だけが支配する。
喧騒は何処にも無く、小さく呟く言葉さえも響き渡ってしまいそうだ。
怖いわけじゃない。強いて言うならば寂しい。それが今この場に合う
言葉だろうか。
新次郎は一度背を震わす。この静寂に、独り飲み込まれてしまうよう
な錯覚を覚えて。
そして、暫くすれば舞台へと辿り着いた。
袖から舞台を見やった時、人影が見えた気がした。
「う゛………」
嫌な予感。まさか、まさかだよねと言い聞かせ。手にした明かりを軽
く隠しながらもう一度舞台を見やる。
舞台には、薄い明かりが灯っていた。
視界に、ふわりと扇が舞う。紫がゆるりと舞台を移動する。
それは、静かな舞だった。それでいて何処か凛としている。揺らぎな
ど何処にも見えず、ただ、ひらりひらりと舞っているようで、時折鋭
さを見せるそれ。
「…………うわぁ」
思わず感嘆が喉の奥から漏れ出る。
すると、舞が突然止まった。一枚の扇が閉じられ、もう一枚が、顔の
位置でゆるりと止まる。
「昴は言った。其処に居るのは誰だ……と」
透き通った声が新次郎の耳に届いた。忘れようも無いその声にちょっ
とビクリと背を正す。
「あ、あの新次郎ですっ。すみません、お邪魔しちゃって……」
隠していた明かりを引き戻し、昴の居る舞台へと向かい歩き出す新次
郎。
その姿を確認した昴は、扇の奥で小さく笑みを零す。
「いや、気にしないでいいよ。ちょっと身体を動かしていただけだか
ら」
パチンっと扇を閉じる音が、静かな舞台と客席に響いた。
「そうなんですか?でも、なんて言うか……こう、神秘的でした」
えへへと笑いながら昴の側に来れば立ち止まり。
「………神秘的?そんな大層な物じゃぁないよ」
扇の先を顎に当て苦笑する昴。本当にそんな大した物じゃない。ただ
本当に身体を動かしていただけなのだから。
「で、でも。そう見えたんですからっ」
何故か力説する新次郎に、仕方ないなと昴は小さく笑う。
「所でキミは見回りかい?」
昴が、尋ねながら小首を傾げる。
そんな姿を可愛いなぁなんて思いながら眺めつつ、新次郎は答える。
「はいっ。って言っても、もう此処で終わりなんですけどね。でも、
びっくりしました。まさか昴さんが居るとは思わなかったので」
軽く首筋を撫でながら苦笑を漏らす。てっきり自分独りだと思ってい
たシアター内に、知らなかったとは言え大好きな昴が居たのだ。それ
だけで心が温かくなる。
「そうか………」
昴は、扇で口元を隠しながら暫しの思案顔。どうしたのだろうと新次
郎が首を傾げていると、昴は小さく微笑みながら口を開いた。
「折角だ、大河。一緒に帰ろうか?」
その言葉に新次郎はパッと顔を輝かせた。
「良いんですかっ!?」
嬉しそうな顔をして昴に詰め寄る新次郎。勢い込んで迫っている為、
昴に程近い場所に居る事に気付かない。
そんな新次郎を、バカだなぁと心中でからかいながら軽く身を反らし
てから扇で頭を叩く。
「良いから誘っているに決まってるだろう?」
打たれた頭を軽く摩りながら、身体を戻し。それでも嬉しそうな顔で
えへへと笑う新次郎は、元気よく、はいっと頷いた。
「帰ります。一緒に帰りましょうっ」
今すぐにでも、帰ろうとする新次郎を昴は呆れ顔で見つめる。
「シアターの前で待ってる。帰り支度をしておいで」
新次郎の頭に手を伸ばし、子供をあやすように頭を撫でる昴。
新次郎は、顔を赤くして子ども扱いしないで下さいと視線で反論する
が、そんな事で昴に勝てるわけも無く。
「さ、僕をあまり待たせないようにね」
頭を撫で終えると、昴は歩き出す。新次郎をその場において。
「あっ、はいっ!直ぐに戻ってきますからねっ」
そう言って、新次郎は先行する昴を追い抜いて走って行ってしまう。
新次郎の持つ明かりが、暗い廊下に尾を引いて消えて行く。
そんな様を昴は小さく微笑みながら見つめていた。