「帰り際」
新次郎×昴
帰宅途中のお話
蒼作
新次郎×昴
帰宅途中のお話
蒼作
「帰り際」
夜の見回りも終わり、新次郎はシアターを出た。
すると、シアターの前に黒塗りの車が止まっていた。そして、丁度その車に乗り込む昴の背が見える。
挨拶をしようと、一歩踏み出したが、昴は車の中へとその姿を消してしまった。
そうなってしまえば、きっと声も届かないだろうし、もし気付いてもらえてもその場に止めてしまうのは悪い。
仕方ない、とちょっと肩を落とし新次郎は声を掛けるのを諦めた。
そうして、自分も家路に付こうと歩き出したが、最後にもう一度と思い昴の乗った車へと目を向ける。
すると、何時の間にこちらに気付いたのか、昴がおいでおいでと車の中から手招きをしていた。
新次郎は、きょろきょろと周囲を見回す。
だが、其処には自分以外誰も居ない。
もう一度車へと視線を向けて、ぼくですか?と自分を指差し聞いてみれば、昴はこくりと頷いた。
それを見た新次郎は喜び勇んで車へと駆け寄る。
ある程度近付けば、歩みを止める新次郎。
しかし、昴は車の窓を開けるでもなく、まだおいでおいでと手招きをしていた。
新次郎は躊躇もせず、もっと車へと近付いた。それでも、昴はまだ手を振っている。
今度は、新次郎も小首を傾げるが昴が呼んでいるのだ、疑う事もせずに更に車へと近付く。
車との距離はもう、軽く手を伸ばすだけで届いてしまう。
そんな距離。車内の昴を見やる。
何時も手にしている鉄扇を開き口元を隠しながら、空いている手でまだおいでをしている。
昴が何を求めているのか、今一解らない新次郎は、それでも大人しく言う事を聞いて窓へと顔を近づけた。
昴が扇を閉じた。露になった唇へと視線を向けていると、その唇が紡ぐ。
『もう少し近づけ』
唇の動きを読み取った新次郎は、疑問も何も思い浮かべる事無くやはり素直に昴の言う事を聞いて更に顔を近づけた。車の窓に、額と鼻の頭、それと唇が軽く触れる。
ふと、昴が動いた。
窓に触れた唇。
昴は、窓越しに新次郎へとキスをした。
ゆっくりと窓から離れ、扇を軽く開き口元へとあてる昴を新次郎は、驚きに目を見開き身を軽く窓から離してから呆然と見た。そんな新次郎を見てフフフと昴は笑う。
そして、昴の唇がもう一度何かを紡ぐ。
『おやすみ、大河』
そうして扇を閉じれば、昴は運転手へと声を掛け車を出発させた。
新次郎は、車を見送り暫しその場に立ち尽くしたかと思えば、急に顔を紅く染め周囲を慌てて見回す。
視線を走らせた周囲には誰も居ない。其れに安堵の吐息を漏らしてから、口元を軽く手で押さえる。
「うぅ、反則です。昴さん」
顔を紅く染めたまま、車が去った方へと視線を向けつつ新次郎はそう呟いた。
それから、そのままずっと其処に佇んでいるわけにもいかず、新次郎は歩き出す。
これでもかと言うぐらい、幸せそうな顔をして―――。
夜の見回りも終わり、新次郎はシアターを出た。
すると、シアターの前に黒塗りの車が止まっていた。そして、丁度その車に乗り込む昴の背が見える。
挨拶をしようと、一歩踏み出したが、昴は車の中へとその姿を消してしまった。
そうなってしまえば、きっと声も届かないだろうし、もし気付いてもらえてもその場に止めてしまうのは悪い。
仕方ない、とちょっと肩を落とし新次郎は声を掛けるのを諦めた。
そうして、自分も家路に付こうと歩き出したが、最後にもう一度と思い昴の乗った車へと目を向ける。
すると、何時の間にこちらに気付いたのか、昴がおいでおいでと車の中から手招きをしていた。
新次郎は、きょろきょろと周囲を見回す。
だが、其処には自分以外誰も居ない。
もう一度車へと視線を向けて、ぼくですか?と自分を指差し聞いてみれば、昴はこくりと頷いた。
それを見た新次郎は喜び勇んで車へと駆け寄る。
ある程度近付けば、歩みを止める新次郎。
しかし、昴は車の窓を開けるでもなく、まだおいでおいでと手招きをしていた。
新次郎は躊躇もせず、もっと車へと近付いた。それでも、昴はまだ手を振っている。
今度は、新次郎も小首を傾げるが昴が呼んでいるのだ、疑う事もせずに更に車へと近付く。
車との距離はもう、軽く手を伸ばすだけで届いてしまう。
そんな距離。車内の昴を見やる。
何時も手にしている鉄扇を開き口元を隠しながら、空いている手でまだおいでをしている。
昴が何を求めているのか、今一解らない新次郎は、それでも大人しく言う事を聞いて窓へと顔を近づけた。
昴が扇を閉じた。露になった唇へと視線を向けていると、その唇が紡ぐ。
『もう少し近づけ』
唇の動きを読み取った新次郎は、疑問も何も思い浮かべる事無くやはり素直に昴の言う事を聞いて更に顔を近づけた。車の窓に、額と鼻の頭、それと唇が軽く触れる。
ふと、昴が動いた。
窓に触れた唇。
昴は、窓越しに新次郎へとキスをした。
ゆっくりと窓から離れ、扇を軽く開き口元へとあてる昴を新次郎は、驚きに目を見開き身を軽く窓から離してから呆然と見た。そんな新次郎を見てフフフと昴は笑う。
そして、昴の唇がもう一度何かを紡ぐ。
『おやすみ、大河』
そうして扇を閉じれば、昴は運転手へと声を掛け車を出発させた。
新次郎は、車を見送り暫しその場に立ち尽くしたかと思えば、急に顔を紅く染め周囲を慌てて見回す。
視線を走らせた周囲には誰も居ない。其れに安堵の吐息を漏らしてから、口元を軽く手で押さえる。
「うぅ、反則です。昴さん」
顔を紅く染めたまま、車が去った方へと視線を向けつつ新次郎はそう呟いた。
それから、そのままずっと其処に佇んでいるわけにもいかず、新次郎は歩き出す。
これでもかと言うぐらい、幸せそうな顔をして―――。
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