「広がる大地」
孫策+太史慈
蒼作
主従のお話
孫策+太史慈
蒼作
主従のお話
「殿っ!殿っ!!」
太史慈が声を荒げ砦内を孫策を探し歩いていた。
今回の戦は先終わったばかり。孫策の快進撃の元、勝利に終わっているのだが太史慈は機嫌が悪そうだった。通り掛かる者を引き止め訪ねたり、休んで居る者へと訪ねたりと。
「えぇい、何処へ行ったのだ。殿は!」
苛立たしげに階段を上がり歩牆へと出る。
風が髪を巻き上げ戦後の臭いを運んでくる。
太史慈は少し瞳を細め目の前に広がる大地を見つめた。
ふと甦る耳に焼き付いた戦場の音を聞いた気がした。
苛立ちが少し薄まる。
小さく息を吐き、太史慈は歩牆を見回す。
数人の見張りが居たがその中に探し人を見つける。
表情を引き締めてから太史慈はその人の方へと向かい歩き始めた。言いたい事が一つだけあった。
「殿――」
側まで歩めば声を掛けた。
しかし、孫策は振り向かず静かに大地を見つめている。
「――殿……。…孫策様」
更に近付くも、一定の距離を空けて太史慈は脚を止め孫策の名へと呼び方を変えた。彼が自分に殿と呼ばれるのを嫌っているのを思い出し。
「何だ?太史慈」
孫策は相変わらず太史慈に視線を向けずに返答を返す。
「少し聞いて頂きたい事があり探しておりました」
生真面目な太史慈の言葉に孫策はやっと視線を向けるも、先の太史慈の様に此方も不機嫌そうだった。
「太史慈、俺は言わなかったか?」
何をまでは言わないが、その不機嫌な理由の一つがその言葉で思い当たり太史慈は溜め息を吐く。
それから周囲を見回し其処に己と孫策しか居ない事を確認するともう一度口を開く。
「孫策殿。話を聞いて欲しい」
言葉が砕けた。
この人は殿もそうだが様も馬鹿丁寧な敬語も嫌いだった。
だが、皆の前でこの話し方は頂けないと太史慈は思っているのだが孫策はなかなか聞き入れてはくれないでいる。
ともあれ、今回はその事で話があるわけではないので拘りを捨てた。そうして、改めて太史慈は孫策を見る。
孫策は満足そうに口の端を上げて笑っていた。
「ま、子義にそれ以上望んでもな。んで?」
太史慈はもう一度溜め息を零してからキッと孫策を睨み付ける。
「孫策殿!あれ程無茶をしないで下さいと言ったのに何故一人で敵陣に突っ込むのです!」
それを聞くと孫策は明らかに面倒臭そうなに顔をしかめた。
それからひらりと片腕を振って太史慈から視線を外す。
「今さっき公瑾にも言われた。いいじゃねぇか、勝ったんだから」
「そう言う問題では無い!」
ダンッと壁を殴るが、孫策の反応は薄い。太史慈はまだ言い募ろうとしてそれを止めた。
この人の下に付いてからそれなりの時が経っている。だからそれなりに孫策の性格も意思も強さも知っている。
また、太史慈は大きく溜め息を吐いて自分を落ち着ける。
「溜め息が多いな、子義」
くくと孫策が喉を鳴らした。
「誰の所為ですか……。兎に角、無茶をするならせめて俺を連れて行って下さい」
「どうしてもか?」
「はい」
太史慈は頑として譲らなさそうだった。
今度は孫策が溜め息を吐く。それから小さく笑って、歩き出した。
孫策も又、太史慈との付き合いは短くはなかったからだ。
「分かった分かった。お前は連れてくよ」
すれ違いざま、孫策は太史慈の胸を強めに小突き、小さく声を立てて笑った。
「――っ絶対ですからね」
小突かれた胸を押さえ、孫策の背へと念を押す。
孫策はそれ以上言葉を告げなかったが手をひらりと振り答えた。
後を追おうとしたが、その背中は着いては来るなよと言っているので太史慈は仕方なく一人そこに止まり、孫策を見送った。
孫策の姿が歩牆から消えると太史慈は視線を大地へと移す。
「まったく、孫策殿は……」
くしゃりと前髪を乱してから、太史慈は空を見上げた。
蒼くそして高い。
「守らねば」
己が望んで降った人なのだ。
何時しかこの地を統べるのは彼だと思い始めたのだ。
「見てみたいのだ」
期待していまう。
彼ならば出来るのだと。
太史慈は小さく笑みを浮かべて空から視線を下ろした。
目の前には雄大な大地が広がっている――。
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