大神×ロベリア
誕生日記念。大人な感じのお話
蒼作
「月の見る夜」
月が煌々と輝く夜空。
もう、夜も遅い。人々は寝静まり、起きているのは夜行性の動物ばかりか。 そんな時間。
明かりの灯らぬ部屋に人の動く気配が在った。
開け放たれた窓。
そこから入りくる月明かりに満ちて、部屋は淡く暖かい。
気配が室内を移動し、その部屋から消えた。
それを待っていたかのように、窓の外に突然別の気配が現れる。
気配が、笑った。
そして、室内に影を落としながら窓を潜り抜け室内へ。 慣れたもので、薄暗い室内でも周囲をみ回す事もなく、整えられていたベッドへドサリと腰を下ろした。
と、部屋を出た気配が戻って来た。
「うぉわっ!?」
ベッドに腰を下ろしている人影に気付き思わず声を上げる。
「よぅ、夜分」
口元に妖艶な笑みを浮かべ片手を軽く振りながら声を上げたのは、ロベリア・カルリーニだった。
「な、なんだ…ロベリアか」
たははと笑いながら、月明かりに照らし出されたロベリアを見て、瞳を細めるのは大神一郎。
「ハンッ。解ってた癖に驚くんじゃないよ」
ひょいっと肩を竦めてからロベリアは大神を見やる。
「誰かまでは解らないよ」
苦笑いし ながら、大神はベッドへと近付き足を止めた。
僅かに開いた空間。
何だとばかりに、ロベリアは下から大神を睨む。
「皆待ってたんだぞ?細やかだけど、君の誕生パーティーの準備をして……」
大神は、一度ロベリアを見下ろしてから溜息を吐く。
「聞いて無かったのか?そんな物必要無いってねっ」
面倒臭そうに手を振って、ロベリア は大神から視線を外した。
「まぁ、皆余り期待してなかったせいか、そんなには怒ってなかったけど…折角用意してくれたプレゼントぐらいは、明日貰っておけよ?」
優しさを瞳に移し、大神はロベリアを見る。勿論その瞳に一瞬、ほんの一瞬浮かべた困ったような表情を見逃す事無く。
「要らないよ」
先浮かべた表情は無かったかのように、ぞんざいに言い放つ。
そんなロベリアの反応に思わず大神は笑ってしまう。
「…………燃やされたいのか?」
右手の平に霊力の炎を乗せて、ロベリアは大神を睨みつけた。
常人なれば、震え上がる視線を大神は最もたやすく受け流し、一歩ロベリアへ近付いた。
「プレゼント、要らないのか?」
珍しい。
大神の瞳の奥、何時もは強く優しい光が宿っているが、今は少し楽しげな色が漂っている。
「要らないって言ってるだろっ」
手の平の炎を握り潰し、フッと吹けば残った火花を散らした。 大神は、それは残念だとばかりに大仰に肩を竦めてみせる。
「俺からのプレゼントも要らないんだ」
今度は悲しげに肩を落とす。俯いたせいで表情が隠れた。
「……………」
そんな大神の所作に、眉間に皺が寄る。
これは罠だと解りきっては要るのだが、この男が自分の誕生日とやらのプレゼントを用意してあるらしい。
別に欲しくはないが、酷く気になったのは確か。
どうするか。此処は、罠にはまるべきか。 僅かな逡巡。
相変わらず、大神は肩を落としたまま。
「あぁ、もうっ!わかったよ、何だ?貰ってやるから教えろよっ!」
がしっと頭を掻きながら、しょうがないと罠に嵌まってやった。そう、しょうがないからだ。
ロベリアがそう口にすれば、大神は顔を上げ笑みを浮かべた。
何処か嬉し気な表情は少年 の様だと、不覚にも一瞬見惚れた。
そんな隙を付いて大神が不意にロベリアに近付いた。
自然な動きだったせいか、反応に遅れると、唇を奪われた。 長く熱く深いキス。永遠に続くかと思われたその瞬間。
ゆっくりと唇が離れて行った。
「俺がプレゼントじゃ駄目かい?」
呼気を整えてから、大神の口から出てきた言葉はそれだった。
「―――ッ!」
そして、ロベリアから零れ出る笑い。 可笑しくてたまらないらしい。
肩を揺らすのが精一杯で笑い声も出ない。
それを元から承知していたのか、大神は怒るでも照れるでも無く、じっと待つ。
「っく!ハッ―――!あ、アンタにしちゃぁ、随分大胆なプレゼントじゃないかっ」
まだ、笑いが抜け切らないのか随分と声が震えている。
「――で?受け取ってくれるのかい?君の誕生日が終わるまで後少し。時間は、ないよ?」
時計を示してから、悪戯っ子のように笑う。
そんな大神を見て、ロベリアは笑むと腕を大神の首へと絡めて、口付けを。
「勿論頂く。大神一郎、アタシを抱きな」
艶めかしく、妖艶に、誘って、耳元で囁いて。
「愛して、くれるんだろぅ?」
今度はこちらから唇を奪って、舌を絡めて、歯をなぞって。 唇を離せば僅かに乱れる呼気が肌を叩いて。
「勿論。君が求めるままに」
ゆっくりとベッドへと横たわり、相手を求め、キスをして、手を伸ばし、肌に触れ。
時が変わるその瞬間まで、時が変わったその後まで。朝日が昇るその瞬間まで、求めるのを止めない。
だって、悔しいじゃないか。
祝った事もない、ただ年が増えるだけの日にわざわざ用意さ れたプレゼントが嬉しいだなんてばれてしまったら。
しょうがないから、他の連中のプレゼントとやらも貰ってやろう。
じゃないと、アンタが図にのっちまうからさ―――。