「赤月」
大神
追悼のお話
しんみり系
蒼作
大神
追悼のお話
しんみり系
蒼作
「赤月」
今日は何時も以上に真面目に仕事をしてきびきびと生活をする。
そして、夜までに仕事と用事を終わらせ、申し訳ないが皆からのお願いも夜まで掛かってしまうのは断った。
それから、夜の見回りも今日は早目に終わらせる。ただ、その途中わざわざ皆の部屋に立ち寄って一言声を掛けた。部屋に居ない者は見回りをしながら建物内を探し、やはり一言声を掛けた。
部屋に戻れば一度室内を見回し、電気もつけず窓際へと歩み夜だと言うのにカーテンを開け窓を開け。
空。
月が浮かんでいるのを確かめてから椅子へ腰を下ろした。
暫くじっと動かずに静寂に包まれる。
不意に思い出したかのように動きだせば、鍵の掛かっている引き出しを開けた。
取り出すのは、煙草一箱。マッチ。灰皿。そして、一丁の拳銃。
コトリ――と静かな室内に拳銃を置く音が嫌に響いた。
煙草を一本引き抜き、口にくわえた。マッチの火を着け、くわえている煙草にその火を移した。
紫煙を深く吸い込み、肺を煙で満たす。
ゆっくり、静かに吐いた。
苦い味。
瞳の奥に揺れる普段誰にも見せる事の無い感情。
それが、大神一郎の追悼の仕方だった。
仕事を理由にその日、皆が向かう墓参りに着いても行かず。次の日に行くと嘘を付いて、決して墓を参る事はしない。
ただ、独り。
その日の夜にこうして過ごし、時計の針が次の日を示すその瞬間に煙草の火を消した。
それから朝まで月と拳銃を眺めた。
眠れない理由を眠らない理由に変えて。
あの日以来、赤い月は見ない―――。
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