「鬼と華」
R孫策×R大喬
大切な日のお話
蒼作
R孫策×R大喬
大切な日のお話
蒼作
準備は整った。
侍女達が頭を下げて下がって行き、暫し訪れる1人の時間。
今までずっと、この日の為の準備準備でろくに1人になれる時間はなかった。
別に1人になれない事は苦ではなかったが、あの人と一緒に居れない事は、苦であった。
ずっと傍にいて支えたい。
そう思い、この婚礼も自然と頷けたのに。
ふと、複雑な思いを持て余していると、カタリと窓の方から音がした。
視線を其方へ向けてみたが、何も変わりはない。
気のせいかと、首を傾げた時。静かに窓が開いた。
其処に居たのは、賊でも無く、護衛の兵でも無く、他の部屋で婚礼の準備をしている筈の彼の姿。
「………伯符様」
会いたいと思っていたその人が目の前に現れて、思わず笑みを浮かべた。
けれど、孫策は目を瞬かせてじっと此方を見やるだけで。
「伯符様?」
孫策の反応に小首を傾げてみると、孫策はまた数度瞬いてから、がしがしと頭を掻いた。
「いや、すまん。余りにもお前が綺麗だったから」
照れ隠しか、そっぽを向きながら器用に窓から室内へと入ってくる。
そんな孫策の姿も、婚礼用の礼服で普段よりも凛々しく見える。
「婚礼の儀を済ませる前に、大喬。お前に言っておかねぇとならない事がある」
婚礼の為の礼服と化粧に身を包んだ、美しい一輪の華になった大喬の側へと歩んで孫策は真剣な表情で告げる。
大喬は黙ってその先を待つ。
「俺はきっと戦にかまけて、お前を蔑ろにするだろう」
孫策は延ばしかけた手を静かに落とす。
「都合の良い様に、お前を利用するかもしれない」
大喬は自然と笑みを深めていった。
「それでも、お前は俺と一緒になってくれるか?」
拳がきつく握られているのに大喬は気付いた。
そっと手を伸ばし、その手を包む。
「どんなお答を望んでいるかは存じませんが……」
大喬は優しくゆっくりと言葉を紡ぎ出し。
「私の答えはたったの1つ」
孫策が銀の髪の間から蒼い瞳で大喬を見やる。
戦しか知らない男の鬼の瞳は、ただただ優しく。
「はい。共に歩み、共に行きます」
大喬の微笑みは何処までも深く優しい。
「………そうか」
孫策は深く息を吐いた。
大喬がそっと孫策の前髪を掻き上げ、頬に触れる。
孫策はその手をに触れて、握り、笑みを浮かべ。
「あと、1つ」
男の微笑み。
「俺はお前を愛してる」
握った手を口元に引き寄せ、手のひらに口付けを。
「大喬、お前を愛してる。だから、娶る」
「私も、愛しております。何があっても」
女の微笑み。
2人は暫し視線を絡ませ。
「抱きしめてぇけど、後でだな。そろそろ、バレちまう」
かかっと笑って孫策は大喬からそっと離れた。
距離は開いても、もう今は心が繋がっている。
「綺麗だ」
ひらりと窓の外へ。
「伯符様も素敵でいらっしゃいます」
その姿を目で追ってにこりと大喬は微笑んだ。
「じゃ、後でな」
手を振ってから孫策は静かに窓を閉めた。
遠ざかって行く気配。
「伯符様。私は何時までもお傍に……」
暖かい風が、春を運んでくる。
婚礼の儀は滞りなく行われ、鬼と華は夫婦となった――。
PR
この記事にコメントする