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「時にはこんな事も」
新次郎+昴+サジータ

朝早く、シアターに着いた新次郎のお話

蒼作

「わひゃぁっ!?」

朝の清々しい空気を破り、その部屋から悲鳴が聞こえた。

地面で餌を啄ばんでいた鳥達が、其れに驚きパタパタと飛び立って行く。

「た、たたたた大変だっ!遅刻っ、遅刻するぅ」

ばたばたと忙しない足音と、衣擦れの音が響く。

こうして、大河新次郎の朝が始まった。

 

 

 

  「時にはこんな事も」

 

 

 

急いでシアターに向かう新次郎は、人波が少ない事に気付かずにシアターへと辿り着く。

シアター前で、おや?と首を傾げるも、そのまま中へと。

なにやら何時もと違い静かなシアター内に、もう一度今度は逆方向に首を傾げる新次郎。

自分の時計を見やる。ぎりぎり所か少し遅刻の時間を指している時計。

けれど、シアターに人の気配は無い。

もう一度自分の時計を見やる。それから、ふと、シアター内の時計へと視線を転じた。

「……………あれ?」

シアターの時計は自分の時計の一時間前を示している。

其れを踏まえて、このシアターの静けさを考えれば、どう考えても自分の時計が一時間ほど進んでいる事になる。

「なんで?」

疑問符が二、三個頭の上に浮かぶ。

「あ、そう言えばリカが弄ったからかもしれない」

手をぽむと叩く。

昨夜、リカが貸してくれとせがむので貸してあげた記憶がある。きっと、その時に弄って時計を一時間早めてしまったのだろう。

「なぁんだ、よかったぁ。遅刻じゃ無かったよ」

ふへぇと、盛大に息を吐いて安堵する。

それから、時計をシアターの時計を見ながら正しい時間へとセットし直おした。これで、もう間違える事はないだろう。

「遅刻じゃないのは良かったものの、こんな早く来ちゃってどうしようかなぁ。ふぁぁ」

大きな欠伸を一つ。間違っていないと気付いたら、何時もより早起きしてしまった所為か、大きな欠伸が零れ出る。

背伸びをしても、眠気が覚めずに眉を顰める。

「あ、そうだ。楽屋でちょっと寝かせてもらおう」

思い立ったが吉日とばかりに、早速楽屋へと向かう新次郎。その足取りは軽く、スキップでしそうな勢いだ。

「それにしても、早い時間のシアターって夜とは違う静けさだなぁ」

朝の空気を愉しみながら、暫くも行かないうちに楽屋の前。

「失礼しまーす」

誰も居ないのを分かってはいても、思わず声を出して扉を開けてしまう。

律儀なのか、ただの癖なのか。

「よいしょっと」

ソファへと寝転がり、伸びを一つ。

「じゃ、ちょっとお休みなさい」

言うが早いかさっさと目を閉じて、夢の世界へと新次郎は旅立った。

 

 

さりとて、何時もと変わらない時間。何時もと変わらない歩調で、シアターに辿り着いたのは、九条昴その人。

軽くシアターを見上げ、何を思うのか。少しすれば、シアター内へと歩を進める。

指定されたよりも早い時間に辿り着いたシアターは、人の気配の無い朝の静けさを称えていて、昴は意外にその空気が好きだった。

とは言うものの、早い時間、人が居ない、となればする事も無い。だから、楽屋かサロンで本を読むのがほぼ日課となっている。その所為で、歩みは自然と本の置いてある楽屋へと向かう。

ドアノブへと手を掛けると、ふと其処からの動作が止まった。楽屋内に人の気配がする。

昴は小首を傾げた。こんな早くから来るのは自分ぐらいだと思っていたのだが。もしかしたら、クライアントに会う為か早起きしたサジータが来ているのかもしれない。一度そういう事があり、そう見当をつける。

そして、ドアを開けた。

楽屋内に踏み入ったものの、予想したサジータの姿は無い。それどころか、人の姿が無いのだ。

小首を傾げると、ドアから背の見えるソファの向こう側から人の気配と、これは寝息か。そんな音が聞こえて来る。

気になったので、ソファに近付き背に凭れてから、向こう側を覗いてみると。

「…………大河?」

其処には、新次郎が眠っていた。

「…まさか、大河だったとは……。予想外だ。まぁ、でも実に君らしいけどね」

扇を開き、口元を隠しながらくすくすと笑う昴。

当の新次郎は、其れに気付くことなくすやすやと眠っている。起きる気配は無いようだ。

「…折角だ、新次郎の寝顔を堪能するか」

そう呟けば、新次郎の頭の隣へと腰を降ろす。ゆったりとした動作は、ソファに振動を伝える事は無い。座れば、ソファは僅かに沈むが、その沈みで新次郎が目を覚ます事は無かった。

寝顔を眺める。むにゃむにゃと、時折表情が変わるのは夢を見ているからか。

暫くすると、眺めるのに飽きたのか、昴は新次郎の前髪へと指を伸ばした。

軽く撫でる。さらりとした髪は指の間を水のように零れて行く。

「君の髪質は、女性か子供の其れだな。新次郎」

あまりの、髪の手触りに苦笑が漏れる。こんな朴念仁だ、特に髪の手入れもしていないだろうに。きっと、後者なのだろう。子供の髪、それだ。

暫く昴は前髪を指先で弄ぶ。それでも新次郎は目を覚まさないが。

「昴は、言った……。君は、無防備すぎる…と」

そう呟きながら、昴は新次郎の額を撫でた。身動ぎする新次郎に、慌てて手を離してしまうけれど。

そんな風に、新次郎で遊んでいると時間を忘れそうだが、昴はきちんと時間を確認するのを忘れない。そろそろ皆がやって来る時間か。

「大河、大河」

涼やかな声音で、囁きながら昴は新次郎の肩を揺すった。

「う~ん……」

揺すられると、軽く身動ぎして新次郎は眉間に皺を寄せた。

起きない。

「…………」

昴は、扇を顎に当てて暫し考える。どうすれば彼は起きるのだろうかと。

そうして、何かを思いついたのか口の端で小さく笑みを作れば、昴は身体を沈め、新次郎の耳元に口を持って行く。

「新次郎……。新次郎、もう起きる時間だよ」

優しく、そして艶かしい声音。吐息が新次郎の耳を擽り、流れ落ちた髪が、頬を撫でる。新次郎の背が、ゾクリと震えた。

「ぅ…ん……、昴…さん?」

薄らと開く瞳。黒瞳がぼんやりと目の前の人を映し出す。

目の前にある昴の顔。思わず笑みが零れ出る。愛しい人が其処にいる。それだけで幸せだとばかりに。

と、新次郎は数度瞳を瞬かせる。そして、次第に目が覚め行き。

ボンッ――と顔を真っ赤に染める。

「すすすす、昴さんっ!?」

声が裏返り、思わず勢いずいて起き上がる。

そんな突然の新次郎の行動に、昴は涼しい顔で頭を素早く上げれば額がかち合うのを防いでしまう。

「おはよう、大河。いい夢は見れたかい?」

何時もと変わらぬ微笑を称え、昴はそう新次郎へと声を掛けた。先の艶かしさは何処にも無い。

「お、おおおはよう御座いますっ。あ、えぇ、ちょっといい夢見れました。えへへへ」

昴に問われれば、思わず本音を零してしまう。そんな自分に気付いているのか居ないのか、新次郎は後頭部を掻きながら照れくさそうに笑った。

「そうか。それは、良かったね。さて、そろそろ皆がやって来る時間だ、身だしなみを整えた方がいいよ?」

扇を閉じれば、それで新次郎のネクタイの結び目を叩いてみせる。

寝る前に弛めた為か、ネクタイは曲がっていた。それから、黒髪を指す。小さな寝癖がついている場所を。

「わわわっ、もうそんな時間ですか!?早くしないとっ」

新次郎は慌てて髪を撫で付けて、ネクタイを結び直そうと首元に手を遣る。

しかし、慌てている所為かネクタイを上手く結び直す事が出来なくて、なにやら一人、格好悪くわたわたと。

それを見ていた昴は、小さく溜息を吐いた。全く君はと呟きながら。

「貸してごらん。僕が結んであげるよ」

そう言って、昴は新次郎の首元へと手を伸ばした。

「あぅぅ、す、すみません」

情けない顔をして、新次郎は努力するのを諦めて昴へと頼る事にした。

でもそれは、昴にネクタイを結んで欲しい何て言う下心があるから。でも、そんな事を口にはしない。例え、顔が赤くなってて昴にそれがばれていようとも。

昴の手つきは手馴れたもので、素早く新次郎のネクタイを結び終えてしまう。

最後に、昴はネクタイの結び目を軽く小突き、終わりだと口にした。

「え、えへへへ。有難う御座います」

嬉しくって堪らない。今日は、もうこのネクタイを絶対に外さないぞと胸中で誓いながら、新次郎は昴に頭を垂れた。

「何、造作も無い」

昴は扇を開き、口元を隠しながら軽く笑った。

そんな昴に釣られて新次郎も一緒に笑う。

と、楽屋の扉が開いた。

「おはようーと」

サジータが姿を現した。

「ん?なんだい、2人して早いじゃないか」

何時もより早い時間だったから、一番だと思っていたのだろう。ちょっと悔しそうにしながらサジータは新次郎と昴を見やる。

そんなサジータを見やれば、新次郎と昴は顔を顔を見合わせて、軽く笑いあう。サジータが、あん?と不思議そうな顔をするも、2人は暫く笑っていた。

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