孫策×大喬
ほのぼのなお話
蒼作
「繋がれた温もりは」
春の木漏れ日。
優しげな風。
草木の囁きと、青い空。
庭にある手頃な木の下での昼寝にはちょうど良い日だった。
孫策は、背を預けている木を軽く叩いてからずるりとだらしなく凭れ直した。
此処ならそうそう人に見つかる事も無いと思っているのか、その姿は子供のよう。
日頃、戦ばかり。時には、こういった休息も良いだろう。義兄弟もよくそう言っている事だし。
孫策が瞳を開けると、ちょうど木々の葉の間から落ちてくる日の光を直視してしまった。眩しくて、でも可笑しそうに瞳を細める。
「あー、そういえばあれとかそれとかやんねぇと、怒られるなぁ」
また瞳を閉じてから、思い出した事柄を面倒臭そうに呟いた。
まぁ、口に出したからといって動こうとは思わないし、どうにかなるだろうと案外あっさりとその思考を止めてしまう。
大きく息を吸って吐いた。
鼻腔に届いた春の息吹と、肺に入った緑の風が心地よい。
暫くそうして、うとうとしていると近付いてくる気配があった。
何だとやはり面倒臭そうに片目だけを開け誰がやってくるのか確認しようと、気配の方へと目を視線をやった。
「伯符さま?」
やって来たのは、愛しい妻。大喬で。
「んー、大喬か」
自然と綻んだ表情。側に在ってこんなに心地よい気配は大喬以外には居ない。
だらしなくしていても、彼女の前でなら許される。
孫策は、手を伸ばして大喬を呼んだ。
「こんな所で、皆様探しておりましたよ?」
くすくすと笑いながら、孫策の手を取り腰を下ろす。
「あー、構わねぇよ。ちょっとぐらい、な?」
悪戯気に笑って今回は見逃してくれよと、頼む。
「もう、そんな事言って。毎回そうじゃないですか」
ちょっと頬を膨らませた彼女が、可愛くて仕方が無い。
繋がれた手とは反対の方の手を伸ばし、孫策は大喬の頬へ触れた。
「そんな顔したって、可愛いだけだ。俺にはききゃぁしないぜ?」
くっくと喉で笑って、触れている頬を一撫でして手を離した。
大喬は孫策の不意打ちに、軽く頬を染めてもうっと孫策の胸を軽く叩く。
「お前も、此処でちょっとゆっくりしていけよ。気持ち良いからさ」
孫策は大喬から視線を離し、空を見上げた。木々の葉が揺れている。日が輝いている。
大喬は少し考えるようにしながら、そんな孫策の顔を暫く眺めた。
そして、今度はこちらが悪戯気に笑って、孫策へと声をかける。
「はい。では、そういたします。ですから、ちょっとお腹をお借りしますね?」
言うが早いか、大喬はころんっと寝転がり頭を孫策のお腹へと乗せてしまった。
「っぁ?大喬?」
自分の腹に乗った大喬の顔を見下ろし、ちょっと孫策は渋い顔。まさか、こうくるとは。
「構いませんよね?」
なんて、事後承諾。
そんな大喬の子供のような顔を見ていると、駄目とは言えずしかたねぇなと、許してしまう。
孫策は、空いている手で大喬の髪へ触れた。軽く梳いてやると、擽ったそうな笑みを零しながらそれでも心地よさそうに大喬が瞳を細める。
絹糸のようなその髪を何時までも梳きながら、二人は会話を交わす事も無く静かに其処で午後のまどろみを楽しんで、何時しか浅い眠りへと落ちて行く。
握った手はそのままで、触れた肌は仄暖かく。
次の戦までは、このままで、そのままで。
互いを感じあいながら―――。