「背徳者は聖夜に微笑む」
大神×ロベリア
クリスマスのお話
黄緑作
「背徳者は聖夜に微笑む」
小高い丘のにある公園は、元々の人気の無さに輪をかけるように誰もいない。
それもその筈。今日はクリスマスなのだから。
人々は家族や恋人や友人と食卓を囲んだり、教会に行って祈り、歌い、神の生誕を祝うのに忙しく、誰もこんな所に来ようとは思わないのだろう。
その公園の手摺に座るアイツと、俺以外は。
「見つけた。やっぱりここにいたんだな」
ロベリアの背に向かって声をかけると、彼女は苦い顔で振り向いた。
その露骨な嫌がり方に小さく笑うと、それが気に入らなかったのか、表情に苦さが増す。
「エリカに連れて来いとでも言われたのか?」
「いや?違うけれど。」
それを聞くなり、ロベリアは安堵の息を吐いた。
ロベリアが最も苦手とするエリカ君は、このクリスマスを随分と楽しみにしていて、朝からロベリアの部屋に押し掛け、聖書を押し付け、教会に連行しようとしたらしい。
だが、信仰心というものを期待するだけ無駄(オーク巨樹は別格として)なロベリアはそれを拒否し、散々エリカ君と攻防を繰り返した挙句逃げ出したということを、コクリコから聞いている。
俺はその場に居なかったから想像しかできないが、先ほどのロベリアの反応を見るかぎり、エリカ君は相当しつこかったのだろう。
「ふぅん……。じゃあ、どうしたんだ?こんな所に来て。」
エリカ君絡みでは無いと知ると余裕がでたのか、からかうようにニヤリと笑いながら、彼女は問う。
きっと、回答なんて分かりきっているだろうに。
「勿論、ロベリアとクリスマスを過ごす為に。」
その回答が予想通りでお気に召したのか、ロベリアは楽しそうに目を細める。
「……で、当然二人でだろうな?」
「あぁ。」
続けての問いに俺が笑顔で頷くと、訪ねておきながら期待はして無かったのか、ロベリアは少し驚いたように目を瞬いた。
「てっきりアンタの事だから、グラン・マのクリスマスパーティに行こうとかいうオチが付くかと思ったんだが…。珍しく気が利いてるじゃないか。」
グラン・マのクリスマスパーティは毎年開かれており、俺もパーティには誘われていた。
俺はいつも呼ばれる度に参加していたし、今回も巴里華撃団の皆も参加するらしい。
けど。
「今回がお前と過ごせる初めてのクリスマスだからな。二人で過ごしたいと思ったんだよ。」
俺達が出会ったのは初夏の事。
なのに、冬が訪れる前に別れがやって来た。
俺は帝都へ。
ロベリアは刑務所へ。
会おうと思っても会えない期間は長く、側にいた時間より離れ離れになっていた時間の方が長い位だ。
だから、出会ってからもう3年になろうというのに、これが初めて共に過ごす冬になる。
ならばせめてこんな特別な日位、ずっと二人で過ごしたい。
会えなかった長い時間を埋める為にも。
「そうだな……。クリスマスってのを何か特別な物として考えた事は無かったが、アンタを独占出来る口実になるなら、クリスマスも悪く無い。」
口では随分と信仰心の無い事を言いながら、ロベリアは穏やかな表情で微笑んだ。
その普段の威嚇的な鎧を脱ぎ去った自然な表情に、俺も思わず笑みが溢れる。
「あぁ。たまにはこんな日も良いだろ?」
「まぁな。」
駆け引きのようでたわいもない事を話しながら、お互いにクスリと笑った。