08[手を伸ばせば、すぐにあなたに届く距離で]
マリア
蒼作
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マリアは一階の廊下を歩んでいた。 窓から見える中庭には、今は誰も居ない。 ふいに、何故かは分からないが、足が止まりその中庭を眺めてしまう。 夕日に染まる中庭はどこか物悲しい気がする。 そんな時、ふと思い出してしまう。時々、その思い出に捕われてしまう。 マリアは、首に下げられたロケットを取り出し、触れた。 もう二度と手の届かない人。そういえば、あの頃はあの人の背を追い掛けるのが精一杯で、結局自分の力ではあの人に手が届かなかった気がする。 大切な思い出。でも、痛く辛い思い出でもある。 「どうしたんだい?マリア」 唐突に掛けられた声で思い出の思考から浮上する。 「隊長」 顔を上げて、大神の顔を見た。 優しく微笑む彼。そんな彼の傍にいられる幸せ。彼の背を護れる嬉しさ。 マリアはそっと微笑み、ロケットをしまった。 [手を伸ばせば、すぐにあなたに届く距離で]
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