大神×ロベリア
シャノワールのバーでのお話
蒼作
「夜のひと時」
シャノワールのバー。
もう、人の姿も無く、明かりも非常灯程度の小さな明かりしか残っていない。
だが、そこに人影があった。
スツールに腰掛け、グラスを傾ける。カラリと氷の踊る音が聞こえた。
独り。闇の中、酒を飲み何を思うのか。
そこへ、小さな明かりが現れた。迷うように、その明かりはゆらゆらと揺れた後、バーへと向かい来る。
「あぁ、やっぱり人が居た」
柔らかな声が明かりの後に続く。
「って、ロベリアじゃないか」
バーに居た人影が誰だか気付き、明かりの主から呆れ声が漏れる。
その声に人影…ロベリアは、口の端で小さく笑った。
「よっ、隊長。見回りか?しっかりやれよ」
カラリ。グラスを小さく掲げ氷をならす。
「しっかりやってるよ。ロベリアこそ、そろそろ部屋に帰れよ?」
大神は苦笑いをしながらロベリアの肩を軽く叩く。さりげない動作だが、それで相手がどの程度酔っているか確認したようだ。
それに気付くも彼らしいとひそかに笑うだけで、ロベリアも何も言わなかった。
「アンタは相変わらず色気がないねぇ。一緒にいいかい?ぐらい言えなきゃ、男がすたるよ」
ククと肩を震わし遊んでみる。
「んー。それじゃあれだし……これでどうだい?部屋まで、送るよ」
そういって、大神は手をロベリアへと差し出した。
そんなことを言われた本人は、僅かぽかんとした顔をして、腹を抱えて笑い出す。
「なっ、なんだよっ」
大神は頬に朱をのせ、ロベリアを睨む。
「いや、隊長にしては考えたなってね」
クスクスと余韻を残しながら、ロベリアは大神が戻し忘れた腕に手を回し擦り寄った。
「んじゃ、送ってもらおうかな」
なまめかしい声音で、大神の耳元で囁く。ピクリと大神の身体が強張るも、本人は平気そうな顔をして、じゃあ行こうかと歩きだす。ロベリアは、そんな大神との部屋までの短なデートを心底味わった。
明かりが遠ざかる。
バーに残ったのは一個のグラス。カラリと溶けた氷が、静かになった。
朝になる前には、それも律義な彼が片付けた。