大神×グリシーヌ
手合わせのお話
蒼作
「日常の中の戦いの一つ」
「隊長!私と戦え!」
朝。珍しく一日休みを貰え、何をしようかと考えながら朝食を取っている所に突如現れたのは、メイド達を従えたグリシーヌだった。
「え?…は?」
思わずぽかーんとして聞き返した大神の左右を素早い動きでメイド達が塞ぎ、連行される形になる。
「ちょっ!?グ、グリシーヌ??」
そして、大神は反論のよち無く、グリシーヌとメイド達に拉致されていったのだった。
拉致されたのは勿論グリシーヌ邸。
そして、此処は帆船の上。前に連れてこられた決闘場で、前回と違うのはマストの上ではなく甲板であるという事。
「グリシーヌ。突然で訳が解らないんだが…」
大神は苦笑いしながら、自分と対峙するグリシーヌに声を掛ける。
流石にこんな扱いに慣れたのか、苦情は出ない。
「あぁ、そうだな。すまぬ隊長」
指摘されやっと気付いたのか、ポムとグリシーヌは手を打ち鳴らした。
「いや、その…」
グリシーヌは言い淀み、視線をさ迷わせる。
それから、咳ばらいをしてから大神へビシッと指差し、手にしていた斧の柄で甲板を叩いた。
「戦え!あ、いや、日本では、修練と言うんだったか?」
気合い充分、一言発するがその後は珍しく自信がないのか、小さな声でぼそぼそと。
「あぁ、なるほど」
大神は、グリシーヌの小さい声をきちんと聞き取って笑みを浮かべた。
「そういう事なら、構わないよ。それに、ちゃんと言ってくれれば了承だってしたのに。俺はまた、何かやっちゃったのかと…」
ハハハと笑って大神は頬を掻いた。
「…そんな事はないが。そう思うからには、何か思い当たるふしが?」
じとーとグリシーヌが大神を睨む。大神は、
「いやっ!そんな事はないよっ!」
ごまかすように、慌てて手を振りながら笑う大神をしばし睨んだ後、まぁいいとグリシーヌは溜め息をついた。
「さぁ、そんな事よりも隊長。相手を頼む」
「ん。じゃあ、俺にも斧を…」
話しを元に戻せば、二人の顔に真剣みがました。
「いや、隊長はこれだ」
それから、グリシーヌは甲板に置いてある木箱から何かを取り出し大神へと放り投げた。
「おっと」
大神は投げられた物を難無く受け取りまじまじと見遣る。
「これは…刀じゃないか。どうしたんだい?」
それは黒鞘に収められた刀だった。新品のようで、握る柄や鞘等に使い込んだ形跡は無い。
「日本から取り寄せた。それは刃を潰してある。真剣もあるが、今はそれで良いだろう」
「へぇ。確かに」
僅かに刃を鞘から引き抜けば、確かに刃が潰してある。大神はそれを指でなぞり、再度確かめた。
「では…」
ギシリ。グリシーヌが斧の柄を握り直し、構えた。
「ん…」
大神も、刀を鞘から抜き放ち構える。
「尋常にっ」
グリシーヌが身体を僅か倒した。
「勝負!!」
ダンッ!甲板を蹴り付け、グリシーヌが間合いを詰めた。
上段からの、大きな振り下ろし。長大な武器を操っているにも関わらず、その動きは速い。隙も僅かしかなかった。
大神はその一撃を軽く右足を引き、僅か腰を落とし刀を斜に構える事で受け流す。
ギャリッ――!
鋼の擦れ合う音が響く。
受け流せば、大神は素早く一歩踏み込み手首を返して刀を翻し右から左へと走る一線を繰り出した。
「ちっ!」
グリシーヌが、無理矢理身体を引き戻し後方へと飛びのく。
それを追うように再度大神が踏み込む。
今度は大神の上段からの一撃。武器の大きさの違いか、それとも身体の鍛え方の違いか、大神の刃はグリシーヌのそれより速く、そして重い。
ギィンッ!
「ぐっ!」
そんな大神の一撃をグリシーヌは真っ向から受け止めた。
大神は小さく笑み刀を引き戻す。そして、更に踏み込み二人の身体が僅かに触れ合う。そして、大神はグリシーヌ脇を通り抜けざま斧を弾き飛ばした。
ガギィン――!
「っ!?」
斧を弾き飛ばされた反動でグリシーヌの身体が大きく傾き倒れそうになった。
それを慌てて大神が腕を延ばし支える。
「ご、ごめんっ、グリシーヌ!大丈夫かい!?」
「っ……!?だっ!大丈夫だから離せっ!」
グリシーヌは大神に抱き抱えられたことに気付くと顔を真っ赤にして叫んだ。
「あぁっ!?ごめんっ!」
大神は更に謝って慌ててグリシーヌを離す。
しばし、二人してそっぽを向いて。先に咳ばらいをしたのはグリシーヌだった。
「で、で、だ。流石だな。隊長には敵わん」
斧を拾いに大神の側を離れながら言った。
「グリシーヌこそ流石だね。一撃が速くて、結構重い」
鞘へと刀を戻しながら、大神はグリシーヌの動きを視線で追う。
グリシーヌが斧を拾い上げた。
「どうしたら、隊長に勝てる?」
ひょいと拾い上げた斧をくるりと軽々と回し、手中に収める。それを見ていた大神は、僅かに感嘆の声を漏らす。
「と、そうだな……まずは、受け流しを覚えようか。それ一つで、戦い方が結構変わるからね」
グリシーヌは大神の側に戻ると、無言で見上げた。
「嫌かい?」
大神は小さく笑った。グリシーヌの性格からいけば、受け流しは信念に反するのだろう。真っ向から立ち向かい、真正面から倒す。それが彼女の戦い方だ。
グリシーヌは暫く黙った後、キッと大神を見据える。
「いや、覚えてみる」
「じゃ、少しずつ頑張ろう」
大神は、そういって笑う。そして、グリシーヌの肩を軽く叩いた。
じゃ、始めようか。
うむ。
そんな、何時もの軽い言葉を交わしあって、二人はまた対峙した。
微笑を浮かべながら。