孫策+周瑜
戦への向かう道中、妻を想うお話
蒼作
「花と共に生きる事」
広大な大地。
何処までも続く地平。
そこに一筆引いた様に人の波が在った。
その人波、一軍を率いるのは孫家の長男。
江東の小覇王と呼ばれた、孫策。
ふと孫策は、馬の脚を止め隊列から外れる様に馬を歩ませ、近くの小高い丘へと登って行く。
それを目にした周瑜は、隊の者達に先へ行けと促し、自らも孫策を追って隊列から離れて行った。
「伯符。どうした」
丘の上で眼下を見下ろしている孫策の背に周瑜は声を掛ける。
「………」
孫策から返事が返らない事をいぶしがり、馬を孫策の隣へと進めた。
そして、孫策の視線を追って眼下を見下ろす。
そこには河があり、その河辺に花の咲き誇る場所があった。
周瑜は視線を孫策へと戻し、また孫策の視線の先を見る。
それを二度程繰り返し、間違っ ていない事を確認すると、ある考えに思い当たり小さな笑みを浮かべた。
「伯符。お前、大喬をあそこへ連れていきたいと思ってるだろ」
周瑜にそう指摘され、孫策は慌てて顔を上げで周瑜を見遣った。
それから罰が悪そうに視 線をさ迷わせ、そっぽを向く。
「図星か」
ククと周瑜は喉の奥で笑い、孫策から視線を外し河辺へと向けた。
「……何で解った?」
照れ隠しにムッスリとした表情で、孫策は周瑜の横顔を盗み見る。
「どれ程の付き合いだと思ってるんだ」
周瑜が声を立てて笑った。
それから、孫策をみやり小さな笑みを浮かべ。
「私も小喬を連れてきたい」
それを聞いて、孫策はニヤリと笑い、そして軍隊を一瞥してから口を開く。
「この戦が終われば、この辺りも呉の地になる」
「あぁ。そうしたら、二人を此処に連れて来ようか」
周瑜が河辺を見ながら孫策の言葉の後を続ける。
二人は視線を合わせてから不敵に笑いあった。
「勝つぞ」
孫策は一言言い放ち、馬の首を軍へと向けた。
周瑜もそれに合わせる様に馬の首を巡らせる。
「あぁ、勿論だ」
周瑜の言葉を聞けば、孫策は馬の腹を蹴り走り出す。
「俺と、公瑾お前が居れば勝てぬ戦など無い!この国を、統べるぞ!」
風を切り緑の大地を二匹の馬が駆ける。
男と男は、笑いそして戦場すらもその勢いで駆け抜けて行くのだろう。
そして、近い内。あの河辺に妻を伴い訪れるのだ―――。
2006.12.29 蒼