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「月の夜の夢」
孫策×大喬

孫策の思い出のお話
ちょっと切ないです。

蒼作

「月の夜の夢」




月が。
夜空に皓々と輝いていた。
大喬は中庭で膝を付き、唇を噛み締めて必死に何かに耐えてい た。
じっと、手の中にある髪飾りを見つめながら。
夜風が、大喬の淡い茶の髪弄んで行く。
あぁ、あの人もそうやって髪を撫でてくれた。
胸がぎゅっと痛くなる。 髪飾りを一撫でした。
それはあの人がくれた物。

「大喬!大喬は何処だっ?」

孫策は、屋敷に帰るなり大きな声で我が妻の名を呼んだ。
戦帰り。鎧も脱がず、屋敷内を大喬を捜して歩き回る。
カタリと戸が開き、大喬が顔を出した。

「孫策様?何事です?」

危うく通り過ぎそうになった脚を止めて、孫策は大喬の姿を見止めると、満面の笑みを浮かべた。

「おぉ、大喬。此処に居たか」
「お帰りなさいませ、孫策様」

大喬は恭しく頭を下げる。

「あぁ、今帰ったぞ」

孫策は微笑を浮かべ、今度の戦も勝ったのだと、もう知らせも届いて知っているであろう大喬に自分の口でそれをもう一度伝えた。

「おめでとうございます。ご無事でなによりでした」

大喬はにっこり微笑んで今、目の前に孫策が居る事を嬉しんだ。
それから、きょとりと瞬いてから小首を傾げる。

「孫策様。私に何か御用で?」

そう言えばと、名を呼ばれていた事を思い出す。
孫策は、戦の勝利と無事帰った事を知らせるのを習慣としていたが、何時もならば身なりを整えてやって来るはず。
何かあったのだろうかと、大喬は僅かに顔を暗くした。
だが、当の孫策と言えば何やら懐を探り何かを探している。
深刻な何かを伝えようとして いる様子では無かった。

「あぁ、あった。大喬、手をだせ」

孫策は茶の瞳を輝かせ、大喬が自ら手を出す前に腕を捕まえ引き上げ、その手の平に何かを乗せた。

「……?」

手の平に乗せられたのは髪飾り。
特にこれといった豪華な装飾は無く、凝った彫りも無 い。
けれど、素朴で美しかった。

「孫策様、これは……」

髪飾りを見ていた視線を上げて、大喬は孫策を見遣る。
孫策は微笑んでから、口を開いた。

「帰り、町の露店で見つけた。一目見て大喬、お前に似合うと思ってな」

孫策は大喬の手をそっと包み、髪飾りを握らせる。

「高価な物でも、豪華な物でもない。けれど、きっとお前を引き立ててくれる。受け取ってくれ」

孫策は、苦笑いを大喬へと向ける。
大喬は花の様に微笑んで、頬を僅かに染めてはいと、小さく頷いた。
あれは、何時だったか。
とても嬉しかった事を覚えている。
だから、この髪飾りを見るだけで、触れるだけであの人が傍に居るように思えて。
孫策が戦で留守の間は日に何度も手にする時もあった。
その髪飾りに彼が無事である事を祈った。
けれど、彼は、帰って来なかった。 幾度目かの願いを髪飾りは叶えてはくれなかった。
髪飾りを握り締め、胸に抱く。もう、二度と感じる事の出来ない孫策の温もりがそこに在る気がした。
とうとう、怺え切れなかった涙が零れ落ちた。
慌てて拭うが、留め処もなく涙が溢れ拭っても拭っても、止まらない。
鳴咽が漏れる。
もう、我慢が出来なかった。
泣いて、泣いて、ただ泣いて。
あの人は二度と微笑んでくれず、抱きしめてはくれない。 大喬は空を仰ぎ見た。
月が煌々と輝いている。

「孫…策……さ、ま…」

月へと手を伸ばす。
輝く月は大喬を静かに照らすだけ。
それでも彼女は手を伸ばす。
そこに帰らぬ彼が居るかの様に―――。

200612.25
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