「共に行くのは」
孫堅×呉夫人
夫を支える呉夫人のお話
蒼作
孫堅×呉夫人
夫を支える呉夫人のお話
蒼作
「共に行くのは」
雨の降る空は灰色で、眺める庭も白く霞む。
腕を組み、柱へと軽く身体を預けて居る孫堅はそんな風景を見て僅か瞳を細めた。
ただ静かに雨の音を聞きながら思考に浸る。
時折眉間にシワが寄るのは、その思考に壁が立ち塞がるせいか。
そんな孫堅が、不意に腕を伸ばしその手を雨の下に晒した。
雨粒が手の平を叩いて行くの が、どこか心地よかった。
「何してんだい」
唐突に声を掛けられるも、動じた様子もなく孫堅はゆっくりと声のした方へと振り返る。
「お前か。どうした?」
逆に聞き返しながら、自らの妻へと声を掛けた。
少々不機嫌そう なのは、質問を質問で返したせいばかりでは無いだろう。
「あたしが質問してんだよ。まったく」
溜息を吐きながら、諦めたように呟く妻を見て、孫堅は軽く苦笑を零した。
「何悩んでんだかしらないが、そんな姿あたし以外に見せんじゃないよっ!」
バシリと背中を叩かれた。
反射的に、身体が軽く前に傾くも、痛みはそんなに感じない。
音だけが大袈裟に聞こえた だけ。
そんな一打。
「ただのお山の大将をやってるわけじゃあないんだからね」
もう一度まったくと零しながら、彼女は空を見上げた。
厚い雲は当分晴れる事はなさそう に見える。
「分かっている。お前以外には見せんさ」
そうして、妻の視線を追って孫堅もまた空を見上げた。
先より、その空が明るく見えた。
そんな気がした。
濡れたままだった手を軽く振って水気を飛ばし、髪をかき揚げる。
何時しか、孫堅に凜とした表情が戻っていた。
それを見上げた彼女は、笑って今度は孫堅の胸をトンと叩く。
そう、その顔だとばかり に。
「心配を掛けた」
妻を見下ろして、小さく笑む孫堅。
「はんっ。心配なんかしちゃいないよ。あんたなんだからね」
孫堅と同じように笑って、彼女はきびすを返した。
そんな彼女の背に、孫堅は優しげに声を掛ける。
「お前が傍に居るだけで、俺は俺で居られる。お前は、良い妻だ。改めて言うのもなんだがな」
そして、ふいと彼女の背から視線を外した。
遠ざかって行く足音とともに聞こえたのは、可笑しそうに笑う気配。
「当たり前だろ?あんたは、ごちゃごちゃ考えないで前に進みな。他を手助けするのが、その良い妻の役目なんだからね」
そして、姿を消した彼女。
なんだかんだ言いながら結局は夫をまた一人にするあたり、妻の優しさを感じる。
まだ、 一人で居たい事に気付いたのだろう。
それでも傍にやってきたのはきっと純粋に心配だっ たからに違いない。
孫堅は、口の端を緩ませ静かに笑った。
俺もまだまだだな。そんな事を思いながら。
雨はまだ止みそうになかったが、心は幾分晴れた気がした。
2007.03.25
雨の降る空は灰色で、眺める庭も白く霞む。
腕を組み、柱へと軽く身体を預けて居る孫堅はそんな風景を見て僅か瞳を細めた。
ただ静かに雨の音を聞きながら思考に浸る。
時折眉間にシワが寄るのは、その思考に壁が立ち塞がるせいか。
そんな孫堅が、不意に腕を伸ばしその手を雨の下に晒した。
雨粒が手の平を叩いて行くの が、どこか心地よかった。
「何してんだい」
唐突に声を掛けられるも、動じた様子もなく孫堅はゆっくりと声のした方へと振り返る。
「お前か。どうした?」
逆に聞き返しながら、自らの妻へと声を掛けた。
少々不機嫌そう なのは、質問を質問で返したせいばかりでは無いだろう。
「あたしが質問してんだよ。まったく」
溜息を吐きながら、諦めたように呟く妻を見て、孫堅は軽く苦笑を零した。
「何悩んでんだかしらないが、そんな姿あたし以外に見せんじゃないよっ!」
バシリと背中を叩かれた。
反射的に、身体が軽く前に傾くも、痛みはそんなに感じない。
音だけが大袈裟に聞こえた だけ。
そんな一打。
「ただのお山の大将をやってるわけじゃあないんだからね」
もう一度まったくと零しながら、彼女は空を見上げた。
厚い雲は当分晴れる事はなさそう に見える。
「分かっている。お前以外には見せんさ」
そうして、妻の視線を追って孫堅もまた空を見上げた。
先より、その空が明るく見えた。
そんな気がした。
濡れたままだった手を軽く振って水気を飛ばし、髪をかき揚げる。
何時しか、孫堅に凜とした表情が戻っていた。
それを見上げた彼女は、笑って今度は孫堅の胸をトンと叩く。
そう、その顔だとばかり に。
「心配を掛けた」
妻を見下ろして、小さく笑む孫堅。
「はんっ。心配なんかしちゃいないよ。あんたなんだからね」
孫堅と同じように笑って、彼女はきびすを返した。
そんな彼女の背に、孫堅は優しげに声を掛ける。
「お前が傍に居るだけで、俺は俺で居られる。お前は、良い妻だ。改めて言うのもなんだがな」
そして、ふいと彼女の背から視線を外した。
遠ざかって行く足音とともに聞こえたのは、可笑しそうに笑う気配。
「当たり前だろ?あんたは、ごちゃごちゃ考えないで前に進みな。他を手助けするのが、その良い妻の役目なんだからね」
そして、姿を消した彼女。
なんだかんだ言いながら結局は夫をまた一人にするあたり、妻の優しさを感じる。
まだ、 一人で居たい事に気付いたのだろう。
それでも傍にやってきたのはきっと純粋に心配だっ たからに違いない。
孫堅は、口の端を緩ませ静かに笑った。
俺もまだまだだな。そんな事を思いながら。
雨はまだ止みそうになかったが、心は幾分晴れた気がした。
2007.03.25
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