孫策×大喬
つきを眺めるお話
蒼作
以前UPしたとき月の夜の夢を間違えてUPしていました。
「月を抱くよりも貴方の傍が」
「大喬。何をしているんだ?」
中庭に静かに咲く一輪の華を見つけ、孫策は軽く声を掛けた。
声を掛けられた大喬は、見上げていた空から目を離しゆっくりと孫策へと振り向く。そして、優しげに微笑んだ。
「……伯符様」
嬉しそうに彼の名を呼べば、こちらへっ歩み寄ってくる孫策へと駆け寄った。
「どうした?独りで」
傍へやってきた大喬へと小さく微笑み、それから彼女が見上げていた空を仰ぎ見てみる。さらりと銀の髪が落ちた。
そして、何処までも続く青空がその視線の先に在った。
「いえ、月が綺麗だったもので…」
大喬はそう言うと、孫策の視線を追うようにもう一度空を見上げた。
「月?」
大喬に言われて、初めて気付き空に月を探した。
そうして見つけた月はまだ陽の落ちぬ時分にその存在を知らしめていた。
蒼い空に白き月。
「綺麗で、そして雄大で在りましょう。まるで、伯符様の様です」
そう、大喬は頬を染めて告げた。
孫策はそれに驚いたように言葉を無くす。
「伯符様が戦に赴いている間、ずっと見つめております。そこに、貴方が居るようで――」
――ザァっと冷たい風が吹き、大喬の言葉を遮って行った。
そして、大喬が寒さに小さく身を震わせる。
それを見た孫策は上着を脱ぎ、大喬の肩へと掛けてから彼女の濃い茶の髪を愛しげに撫でた。
「今は本人が傍に居るんだから…。俺を見ていろ。寂しければ耳元で囁いてやる、寒ければ抱きしめてやる。月にはそんな事出来ないだろう?」
そう言いながら、孫策はそっと大喬を抱きしめる。
照れ隠しと言うよりそれは、やきもちに似て。
「そう、ですね。今、傍には伯符様がいらっしゃいます。さぁ、部屋で熱いお茶でも飲みましょう?」
クスクスと笑いながら、一度孫策の胸へと擦り寄ってから大喬は孫策の手を取って歩き出した。
孫策はその大喬の後に続いてゆっくりと歩いて行く。二人は共に笑いその姿を室内へと消した。
そうして、陽が落ちるまで、二人の声が途絶える事は無かった――
2007.04.15